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「んん───…風が気持ち良いなぁ~。」 思い至ったが吉日。オレは今、海の上にいた。 フェリー…というには、ちょっとボロッちくてこじんまりとした船のデッキで波風を受けながら。 オレは何度も深呼吸する。 あれから数日…何故だかオレは取り憑かれたかのよう、あの乙女ゲーム…『初恋♥守護騎士様(ガーディアン)』を無我夢中でプレイし。 徹夜までして、一気に全攻略キャラクターを完全クリア。おまけにCGフルコンプまで果たしてしまい… そして今、傷心旅行へと繰り出していた。 宛もなく、たまたま見つけた格安だった聞いたことのない国のツアーパンフをみつけ、パスポートを引っ張り出し。 荷物を纏め半ばヤケクソ…なのかは解らないけど。 気付けばひとり旅へと出発したのが──…一昨日の話。 こうして知らない土地で独り、豊かな自然や美味しい物を満喫したりすれば。少しは気分転換になるんじゃないかなって、思ったんだけどね…。 1人旅ってのは話し相手がいない分、つい色々考え込んでしまうから…やるせない。 まあ…海は鮮やかなエメラルドグリーンに輝いて綺麗だし、天気も上々。初めて食べた郷土料理も意外と美味かったから、楽しめてないわけじゃないんだけどさ。 先の事を考えると、嫌でもナーバスになっちゃうよね。 それに… (ルーファス様、でカッコ良かったしっ…) 乙女ゲームなんぞ、それこそヲタク女子がするゲームだろと、ちょっとナメてた分。意外にもあっさりハマってしまってた自分が…恨めしい。 イケメン並べてただ萌え~だの、イチャイチャだの~なゲームかと思いきや。ストーリーが思いの外深くて…。 世界観とか細かい設定は割愛に、ご都合主義なところもありはしたけど。キャラクターデザインもオレ好みで良かったし、完全フルボイス仕様だったから。 ちょっとしたアニメを見てる気分が味わえて、楽しかった。 しかもだ、元カノ・アリサちゃんのハートを射止めた“ルーファス様”を。とにかく意地になって一番最初にプレイしちゃったんだけど…。 もうね、こんな誠実で王子様みたくキラキラした美形なんて、まず現実にはいないだろ!…ってツッコミたくなるくらい、本当にカッコ良くってさぁ。 最終的には惹き込まれちゃって、一応は全キャラクター攻略までしたんだけども。 ルーファスだけはコンプした後も、ついついイベント見たさに周回プレイしてしまったもんだから… どんだけルーファス様にハマッちゃってんの、オレ? いやいや、オレとしてはアリサちゃんが語る理想の男を学ぶためにだな~とか……まぁ、恥ずかし紛れにそんなイイワケしちゃうくらいに? “ルーファス様”は、男でも惚れてしまいそうなくらい。マジでカッコ良かったのだ。 「けどオレ、ゲームのキャラに負けたんだよなぁ…」 あ、改めて声に出すと結構ツライ… いくら彼がカッコ良くても所詮は創りモノ、二次元のゲームの中の存在だ。 なのに生身の人間でありながら、オレは知らないうちにソイツに惨敗させられたわけで。 悲しい悔しいを通り越して、なんだか情けなくってしまい。自分で言っておきながら、ついつい涙が溢れてしまうのである。 「何やってんだろなぁ、オレ…」 マイペースが故、この性格を恥じた事は一度もなかったけれど。いざ客観的に振り返ってみれば、決断力や男らしさで言えば… 色々と足りないとこばかりが見えてくる。 (ホント、ちっちゃいなぁ…) デッキの錆び付いた柵にもたれ掛かり。遠く地平線を、ぼやけた視界で眺める。 その果てしなくも美しい大自然の姿に。 己の未熟さを省みては、悔やしさが募った。 世界ってホント広い。 今こうしてる間にも、数多(あまた)の男女達が惚れたなんだと、善くも悪くも縺れ合ってたりすんだろうが。 中にはオレみたいにイレギュラーな失恋をした人間も、少なからずいたりするのかもな…。 「ウジウジしたって、しょーがないよな…うん。」 こうして景色を眺めてると、時が経つのも忘れてしまいがちだが。滞在日数は限られてるし…日本に戻ったら、まず仕事を探さなきゃいけない。 だってこの旅行の費用で、今までの貯金ほとんど叩いちゃったからさ。また就活するにしても、繋ぎのバイトもしなきゃヤバいんだもんな~…とほほ。 それでも、今だけは…この旅を満喫したいと思う。 だってお金掛かってんだから、楽しまなきゃ損じゃんか! 「よっし!気分換えて、観光しまくるぞ~!」 空元気でも振り払うよう叫べば、ちらほらいる他の客から不審な目で見られたけど。 旅先だと、余り気にならないから不思議。 うん、最初は立ち直れないかもって思ったが… この調子なら案外大丈夫そうだ、オレ。 …と、ようやく前向きに進みかけてたところで───… 「─────~~…!!」 突然、船のクルー達が何か叫び声を上げて…船内が瞬く間に騒然と、慌ただしくなる。 その場の客達が、一斉にクルーを振り返れば。 何かを指差し、知らない言語で悲鳴を上げていて… 「なん───────」 誘導され、更にそちらを見やれば。 晴れていたはずの視界は、一瞬で陰り…巨大な何かが船の頭上を覆って、 「なっ…くじ─────」 そこからはもう…何が何やら判らないまま。 オレの意識はまるで、電源の切れたテレビ画面のように。 プツリと暗転し、閉ざされてしまったのだ。

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