14 / 423
⑩
「もし、辛い事があれば…何でも言ってくれて構わない。私に出来る事があるならば、必ずやセツの力となろう。」
別世界から半ば強引に連れてこられた人間が、独りで背負うには重すぎるだろうから…と。
「神子を護る事が、私の使命なのだから…。」
「ルー、ファス…」
手を取られ、真剣な眼差しでそんなこと言われたら…困る。
だってオレは一応、コイツが原因で彼女にフラれちゃったわけで。ぶっちゃけ逆恨みだとは思うけど、本来なら相容れられるような相手ではないんだ…でも。
コイツは真っ直ぐで誠実で優しくて。
誰からも愛されるような、本当にいいヤツ…でさ。
ゲームするまでは、解んなかったけど。
エンディング見る頃には、失恋した原因だとか恋敵だとか…もうどうでもよくなってたんだよ。
ルーファスの話、どのルートも感動するものばっかだったからなぁ…。
「ほんとずるいよなぁ…」
悔しいくらい男前なんだもん。
オレみたいなのが、絶対敵うわけないじゃん。
何か衝動に駆られ、握られた手とは逆の手をルーファスの胸に伸ばし…軽く触れてみると。びくりと大袈裟なくらいに肩を揺らされて。
なんだよって、苦笑混じりに見上げたら。
目が合った途端、ルーファスはソワソワしたよう、その視線をさ迷わせた。と…
「セツ、前触れも無く男の体に触れるのは、如何なものかと思うのだが…」
「…なんで?ルーファスだってオレの手握ってんじゃんか。」
「や、それとこれとは話がだな…」
変なの。急に慌ててどうしたんだろ?
長身のコイツを見上げたまま、首傾げたら顔真っ赤にして目を逸らされたし。
「ならオレも言わせてもらうけど。ルーファスみたく男前なのが…その、いきなり手にきっ…キス、とかするとだな!それこそ世の中の女の子は、みーんな勘違いしちゃうんだぞ?」
ついでに今みたく手を握り、キラキラした目で見つめてくるだとかね…。素で心配して、部屋まで来てくれたりしちゃうとことかもだ。
そういうさりげない優しさに、アリサちゃんもコロッといっちゃったワケなんだしさ…。
なのにコイツは自覚が無いのか、オレの言葉に納得いかないとばかりに反論しだす。
「それを言うならば、セツの今の行為も充分軽率だと思うが…」
「え?だからなんで?」
「ッ…なんでって、まずその上目遣いが良くないんだ…」
そう言われてもさ。180以上はあるルーファスに対し、ギリギリ170程度のオレが相手じゃ、必然的にそうなると思うんですけど?
なんかもう嫌味にしか聞こえないので、むーっとして睨み付けてやったら…
「ッ…!…自覚がないなら、いい…。」
すまなかった、と。ルーファスは先に自らが折れ、頭を下げる。
今の流れは良く解んないけど。
こういう引き際を解ってる慎ましいとこなんかも、カッコ良いんだからズルイよなぁ。
でもほんと変なヤツ。真面目で素直な人柄だけど…なぁんか天然なとこもあるよね、ルーファスは。
それで男女構わず、無自覚にタラシこんでくるんだから、タチ悪過ぎでしょ…。
「もう…なんでお前が謝るんだよ。ルーファスってば、ホントお人好しだよな。」
さっきまで独り煮詰まって、若干ナーバスになりかけてたのに。ルーファスが来てくれたおかけで、かなり気持ちが楽になったみたいだ。
まあ、結局この世界がなんなのか、とか…
本当にオレが神子なのかどうかとか。
問題は何ひとつ解決してないんだけどさ…
「なんか助かったよ、ありがとう。」
「…少しでも役に立てたなら、良かった。」
純心で真っ直ぐなルーファスの優しさは本物だなぁと、改めて実感する。
お礼を述べれば照れたよう微笑んだルーファス。
そりゃ敵うわけないよなぁ~こんな完璧な男なんて、それこそ二次元ありきの産物だもん。
生身でモヤシみたいなオレが、どんな頑張ったところで…勝てるワケないじゃんか。
そんなこんなで…現実に起こった不幸がチンケなものに思えるくらい、非現実的な世界に飛ばされて。
ワケも分からず、突然“神子”なんていう大役を与えられ、世界を救うことになってしまったわけだが…
「今日は疲れただろう、セツ。もう遅いから…ゆっくり休むといい。」
「ん。ありがとな、ルーファス。」
興奮しててなかなか寝付けなかったのも反面、朝が来て目覚めた時…───オレはどうなってんのかなって、実はそっちの不安のが大きかったんだと思う。
だって全部元通りになったら…ルーファスとももう、こんなふうに会えないんだなってことだから…
(寂しい、のかな…)
部屋を出ていくルーファスを見送って、ベッドへとダイブする。
この際、夢だろうがあの世だろうが…
何でも構わないから、もう少しだけ……とか。
そんなことを密かに願いながら、オレはゆっくりと眠りに落ちていった。
ともだちにシェアしよう!