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「もし、辛い事があれば…何でも言ってくれて構わない。私に出来る事があるならば、必ずやセツの力となろう。」 別世界から半ば強引に連れてこられた人間が、独りで背負うには重すぎるだろうから…と。 「神子を護る事が、私の使命なのだから…。」 「ルー、ファス…」 手を取られ、真剣な眼差しでそんなこと言われたら…困る。 だってオレは一応、コイツが原因で彼女にフラれちゃったわけで。ぶっちゃけ逆恨みだとは思うけど、本来なら相容れられるような相手ではないんだ…でも。 コイツは真っ直ぐで誠実で優しくて。 誰からも愛されるような、本当にいいヤツ…でさ。 ゲームするまでは、解んなかったけど。 エンディング見る頃には、失恋した原因だとか恋敵だとか…もうどうでもよくなってたんだよ。 ルーファスの話、どのルートも感動するものばっかだったからなぁ…。 「ほんとずるいよなぁ…」 悔しいくらい男前なんだもん。 オレみたいなのが、絶対敵うわけないじゃん。 何か衝動に駆られ、握られた手とは逆の手をルーファスの胸に伸ばし…軽く触れてみると。びくりと大袈裟なくらいに肩を揺らされて。 なんだよって、苦笑混じりに見上げたら。 目が合った途端、ルーファスはソワソワしたよう、その視線をさ迷わせた。と… 「セツ、前触れも無く男の体に触れるのは、如何なものかと思うのだが…」 「…なんで?ルーファスだってオレの手握ってんじゃんか。」 「や、それとこれとは話がだな…」 変なの。急に慌ててどうしたんだろ? 長身のコイツを見上げたまま、首傾げたら顔真っ赤にして目を逸らされたし。 「ならオレも言わせてもらうけど。ルーファスみたく男前なのが…その、いきなり手にきっ…キス、とかするとだな!それこそ世の中の女の子は、みーんな勘違いしちゃうんだぞ?」 ついでに今みたく手を握り、キラキラした目で見つめてくるだとかね…。素で心配して、部屋まで来てくれたりしちゃうとことかもだ。 そういうさりげない優しさに、アリサちゃんもコロッといっちゃったワケなんだしさ…。 なのにコイツは自覚が無いのか、オレの言葉に納得いかないとばかりに反論しだす。 「それを言うならば、セツの今の行為も充分軽率だと思うが…」 「え?だからなんで?」 「ッ…なんでって、まずその上目遣いが良くないんだ…」 そう言われてもさ。180以上はあるルーファスに対し、ギリギリ170程度のオレが相手じゃ、必然的にそうなると思うんですけど? なんかもう嫌味にしか聞こえないので、むーっとして睨み付けてやったら… 「ッ…!…自覚がないなら、いい…。」 すまなかった、と。ルーファスは先に自らが折れ、頭を下げる。 今の流れは良く解んないけど。 こういう引き際を解ってる慎ましいとこなんかも、カッコ良いんだからズルイよなぁ。 でもほんと変なヤツ。真面目で素直な人柄だけど…なぁんか天然なとこもあるよね、ルーファスは。 それで男女構わず、無自覚にタラシこんでくるんだから、タチ悪過ぎでしょ…。 「もう…なんでお前が謝るんだよ。ルーファスってば、ホントお人好しだよな。」 さっきまで独り煮詰まって、若干ナーバスになりかけてたのに。ルーファスが来てくれたおかけで、かなり気持ちが楽になったみたいだ。 まあ、結局この世界がなんなのか、とか… 本当にオレが神子なのかどうかとか。 問題は何ひとつ解決してないんだけどさ… 「なんか助かったよ、ありがとう。」 「…少しでも役に立てたなら、良かった。」 純心で真っ直ぐなルーファスの優しさは本物だなぁと、改めて実感する。 お礼を述べれば照れたよう微笑んだルーファス。 そりゃ敵うわけないよなぁ~こんな完璧な男なんて、それこそ二次元ありきの産物だもん。 生身でモヤシみたいなオレが、どんな頑張ったところで…勝てるワケないじゃんか。 そんなこんなで…現実に起こった不幸がチンケなものに思えるくらい、非現実的な世界に飛ばされて。 ワケも分からず、突然“神子”なんていう大役を与えられ、世界を救うことになってしまったわけだが… 「今日は疲れただろう、セツ。もう遅いから…ゆっくり休むといい。」 「ん。ありがとな、ルーファス。」 興奮しててなかなか寝付けなかったのも反面、朝が来て目覚めた時…───オレはどうなってんのかなって、実はそっちの不安のが大きかったんだと思う。 だって全部元通りになったら…ルーファスとももう、こんなふうに会えないんだなってことだから… (寂しい、のかな…) 部屋を出ていくルーファスを見送って、ベッドへとダイブする。 この際、夢だろうがあの世だろうが… 何でも構わないから、もう少しだけ……とか。 そんなことを密かに願いながら、オレはゆっくりと眠りに落ちていった。

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