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⑦
「…で、何を悩んでいるんだ?」
言って優しくオレの頭に手を乗せるルーファス。
さりげなく触れられ、ドキリと胸の奥が熱くなる。
昨日、オレにすぐ触るなとか注意してきたクセに…
ホント無自覚イケメン様はズルイ。
「や、その…」
コイツに優しくされると、甘えたくなる自分がいる。多分ルーファスが、歳の割に落ち着いてるからだろうけどさ…。
それだけじゃない気がするのは、なんでだろ?
オレが顔を赤らめ、もごもごと言い淀んでいると。先にルーファスの方から切り出された。
「すまないな…」
「え…?」
何が?と見上げれば、ルーファスは憂いを帯びた笑みを見せて。
「困惑…しているのだろう?」
本人の意思も無く連れて来られた世界で、いきなり神子の責任を背負わされて。
…ルーファスの目をじっと捉えれば、なんだか全てを見透かされてるような気分になる。
「オレ、はっ…」
「良いのだ。それでも私は、お前に“選んで良い”などと、軽々しくは言えないのだから…。」
だからすまない、と。まだ出会って間もないようなオレを、神子の名で縛り付けてしまうことに。
コイツは律儀にも、罪悪感を抱くんだ。
「別に、お前はっ…────」
「私もこの国の民…だから、同罪だ。」
擁護しようとするオレの口を、ルーファスはその指先で遮る。
「ルーファス…」
「私は神子を守護する為に、存在しているのだがな…」
己の不甲斐なさに葛藤するルーファス。
唇から、オレの頬へと滑るその指が…戸惑いを露に、微かに震えているのが判った。
「ずっと当たり前だと、思っていたんだ。神子は世界を救うものだ、と。しかし実際に、神子の使命を負わされるセツを目の当たりにしたら…。それが矛盾していたのだと、初めて気付かされたのだ…」
なんて独り善がりなのだろう、と。
自身の世界の安寧と、オレなんかとの両天秤に揺れる緑柱石の瞳。
その目に見つめられると、なんだか胸がいっぱいになり…じんと目頭が熱くなってしまった。
「ちがう、違うよ…ルーファス。」
「セツ…?」
静かに首を横へと振るオレに、ルーファスは眉を寄せる。
「お前はオレを守るって…誓ってくれただろ?」
だったら、オレが使命とやらを全うするその時まで。傍にいて、一緒に。
「救うんだ。オレと、世界をさ。」
この一瞬で、つっかえてたものが吹っ切れて。
笑顔で告げれば、目を見開いて固まってしまうルーファスだったけど…。
「ああ、そうだな…私の命、セツの為に捧げよう。」
お前が進む道を共に…我が一生を懸け、護る───だなんて。なんとも騎士らしい殺し文句で応えるルーファス。
ホント、敵わないよなぁ…
「なんだそれっ…まるでプロポーズみたいだなっ!」
「え?プロ…」
余りの気恥ずかしさに、からかうよう返せば。
真に受けたルーファスは、頬を赤く染めてしまい。
そうなると、オレにまで熱が移っちゃうわけで…。
夜も更けてきた、薄灯りの部屋で男ふたり。
暫くあたふたするという、妙な空気に苛まれることとなる。
なんか調子狂うんだ、オレ。ルーファスが相手だと、さ…
なんだかんだと、オレの為に親身になってくれるルーファスに心打たれ…『神子』という使命に対する考えを改めたオレは。
迷いもありはすれど、着実に…それでも一歩ずつ。
それはたぶんきっと…良い方向へと、進み始めていたんだ。
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