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ep.3 ティータイムにご用心①
「此方の世界の文字は、読めるようですね。」
「うん、初めて見る字だけどね。」
神子の教育係を担うヴィンセントに渡された本を開き、答える。
とりあえず適当にペラペラ捲ってみると。
現実世界には存在しない暗号のような形の文字が、そこには綴られていたんだけど…。
オレはその文字が普通に読めちゃったのだから、驚きだ。
ヴィンセント曰く、これも神子の力のひとつなんじゃないかと。
「セツ殿には、これからこの世界…我が国についての歴史や文化、魔法学などについて学んで頂くのですが…」
言語が理解出来るならば、最も面倒な手間が省けたとヴィンセント。…そう淡々と説明しながら、机上に本をドサドサ山積みにしていく。
ちょ、一冊一冊が辞書並みに分厚いんですけど…?
「まずは、こちらを読んでおいて下さい。」
「えっと、コレ全───」
「全部ですが、何か?」
当然でしょう、と言わんばかりにヴィンセントが眼鏡を光らせる。こういうキャラは大抵、怒らせちゃダメなタイプだからな…。
抗う術の無いオレは、反論しかけた言葉をグッと飲み込み…素直にハイと応えるしかないのである。
「何か解らない事がありましたら、遠慮なくお訊ね下さい。私は隣の執務室にいますので。」
そう告げるや否や、ヴィンセントは自身の雑務をこなすべく、隣室へと行ってしまった。
遠慮なくって…最低限は自分で何とかしろよって、言わてるような気がしないでもないけどね。
「はぁ~…」
目の前に積まれた本の山を見上げ、溜め息を吐く。
勉強だなんて学校卒業して以来だし…特別好きなわけでも、頭が良いわけでもないから。正直言って苦痛でしかない…んだけど。
(…あ、ルーファス達だ…)
ここ、1階にある勉強部屋の出窓から外を見やると…。庭園にある広場で、守護騎士達4人が訓練している様子が良く見える。
オレがこうして勉強に励んでいる間は、体が鈍らないようにと。いざって時のため、彼らは日々鍛練に励むのだそうだ。
今はルーファスが、ロロやジーナの相手をしながら指導する様子が見えて。
そんな彼らを、近くで見守るアシュレイも。
時折口を開いては、何やら助言のようなものをしていた。
まるで兄弟とか、師弟のようなその関係性が。
見ていてなんだか微笑ましい。
(相変わらずキラキラしてるなぁ…)
真剣を木剣に持ち代え、鍛練に汗を流すルーファスへと視線を留める。
コイツは何をしていても、そつなく爽やかで、大人な色気もあって。つい見惚れてしまうぐらい完璧で…ホント格好いい。
(頑張ってるなぁ…。)
オレを守ると誓った彼は、稽古と言えど抜かりなく。その真剣さは、遠目からでも良く判るほど。
こうして見てると、なんだか胸の奥をギュッと鷲掴みされてるみたいで…息が、詰まりそうになるから。
「…っし、やるか!」
今にも現在進行形で、世界の危機とやらが進んでいるのかもしれないんだし。守護騎士のみんなだって、ああして努力してるんだから。
一応神子…であるオレが指くわえて見てるってのも、可笑しな話だもんな。
アイツの───…ううん、この世界のためにも。
オレがやれることくらいは、頑張ってかないと…
そう、自身を奮い起たせて。
オレは目の前の山を、崩しにかかった。
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