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③
「まだ始めたばかりなのだから、焦る必要は無いだろう。」
ゆっくり自分のペースでやればいい。
そう言って優しく微笑むルーファスに頭をぽんぽんされて。幾分、気持ちも楽になった。
イケメンの癒し効果か、ついつい顔が弛みそうになるけど…。
「そうそう、セツは来て間もないのだし。まずはこの国の生活に慣れてからで良いと思うよ。」
アシュレイも大人びた笑みで励ましてくれる。
ナンパなイメージだけど、そういうのも気配り上手だからこそなんだと思う。
普段は飄々としてるけど、やることはきっちりやってるみたいだし。稽古中も一番落ち着いてるから、頼れるお兄さんって感じするもんね。
「さあ、せっかくのお茶が冷めてしまうよ?」
今は難しい事は抜きにして、暫しの休息を楽しもうじゃないか。そう言ってアシュレイは、カップにお茶を継ぎ足してくれた。
「ん、ありがとう。」
ケーキにクリームをたっぷり付け頬張れば、自然と顔が綻んで。甘い香りが鼻孔を抜け、ふわりと広がっていく。
ん~ホント美味い!
やっぱ頭使った後の甘味は、格別だよな~。
「ふふ、セツはとても美味しそうに食べるんだねぇ。」
幼子に向けるような微笑を浮かべながら、アシュレイがオレの顔を覗き込む。と…
「ほら、口元にクリームが付いているよ?」
徐に手を伸ばしてきて。
「んっ…」
「ふふ、ごちそーさま。」
「なっ…!」
気付けば長いその指で、オレの唇を拭われて。
彼は迷わずクリームが付いたその指を…ペロリと舐めてしまった。
なんだこの色気…
思わず目を丸くし固まるオレ────…と。
何故かしかめっ面で、勢い良く椅子を倒しながら立ち上がった……ルーファス。
ロロとジーナに至っては、いつの間にやら園庭に降り。キャッキャとその辺を走り回っていた。
「どうしたんだい、ルーファス?急に取り乱して。」
「い、いや…」
アシュレイに問われ、どこかぎこちない様子のルーファス。オレも茫然としたままで、未だに動けずにいて。
それを見たアシュレイは、くすりと妖艶に笑う。と…
「セツは本当に可愛いなぁ…」
“食べちゃいたいくらい───…”
冗談ぽく言い放たれたアシュレイの台詞に。
一度は座り掛けたルーファスが、またもや盛大に椅子を吹っ飛ばすと…
今度は憤慨した様子で立ち上がった。
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