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④
「アシュレイ殿…!セツにそのような物言いをするのは…」
「おや、どうして?別に他意はないのだけどなぁ。」
一体何がイケナイないのかな?…と。
からかうよう苦笑するアシュレイに、ルーファスはたじたじ。
どうやらアシュレイの方が年上で口達者な分、一枚上手なようだ。
「君だってそう思うだろう?…思った事は、きちんと言葉にして示さなくちゃ。本音は伝わらないものだよ?」
意味深に笑うアシュレイに、オレは意図が読めず首を傾げる。ルーファス自身は、その言動に何かを察したのか…顔を真っ赤にし、俯いてしまった。
「君は素直で分かり易いのだけどねぇ。もう少し柔軟にならなきゃ…横から誰かに盗られても、文句は言えないよ?」
こんな風に────…悪戯に目を細めたアシュレイが、いきなりオレの手を取ってきて。
なんだろって成り行きに任せていたら。いつぞやのルーファスみたく、けれどわざとらしくチュッ…と音をたてて。
手の甲にキス、されてしまった。
「なっ…!」
「じゃあね、セツ~。」
わなわなと拳を握り、顔を引き攣らせるルーファスを置き去りに。アシュレイは間延びした様子で、バイバイ~と手を振り去って行く。
怒りとも戸惑いともとれるような、複雑な面持ちを浮かべるルーファスは。彼のその背が見えなくなるまで、じっと其方を凝視しながら立ち尽くしていた。
「なっなんだったんだ、アシュレイのやつ…」
や、オレより年上なんだけどさ…。
騎士ってもんは、みんなこんな感じなのかな?
ルーファスとは、全然タイプが違うけども。
なんていうか、結構大胆なとことかさ…。
「…えと、ルーファス?」
呆れと恥ずかしさで、ごちゃごちゃした頭を振り払うため。突っ立ったまんまのルーファスを見上げると…。
ビクリと反応した彼の目に捕まり、何故か動けなくなる。
「ど、どした…の?」
もどかしいような、切ないような…哀愁を帯びた表情で。これほど顔の整った美形に、じっと見つめられるというのは…なかなか慣れるもんじゃなくて。
オレの体温は、軒並み急上昇していく。
切羽詰まって、もう一度名を呼んだら。
ルーファスは小さく肩を揺らすと…ようやくして反応を示してくれた。
「セツ…」
「あっ、」
先程アシュレイにキスされた手を掴まれ、引き寄せられて。不意に距離が近付き、心臓が飛び跳ねる。
ルーファスは何かを言い掛けては、すぐ口を噤んでを繰り返すけど…。結局は物言わぬまま、オレの手を見つめ押し黙ってしまった。
「ルー…?」
様子のおかしいルーファスに。
だんだん心配になってきて、堪らず声を掛ければ。
「いや、すまない…」
なんでもないからと。苦笑う彼は、言葉とは裏腹に…やはり元気がないように思える。
どうしたんだろ?
さっきまでは、アシュレイとも普通に喋ってたのに。実は元々、仲が良くないとか────…
でも、そんな風には思えなかったけどなぁ…。
「…セツ?」
「えっ…ああ、なんでもないよ!」
気になって、じぃ~…っとルーファスを見上げてたら。いつもの困った顔で笑われれてしまい、オレも慌てて首を横に振る。
「あっ…そろそろ勉強に戻らないと…」
「そう、か…ならば私も、セツを見習うとしよう。」
まだ出会って3日目。
ルーファス達の関係性とか、彼ら個人のこと。
国とか、そういう階級のある世界では。
オレには計り知れないようなしがらみとか、複雑な何かがあるのかもしれない。でも…
(もっと、知りたい…)
ルーファス達のこと、そしてみんなが住まうこの世界のことも、ちゃんと。
さっきまでのふたりの遣り取りや、険悪な様子が…ちょっと気になってしまったし。優柔不断で面倒くさがりなオレにしては、珍しいことだけど…。
そんな意欲に駆られて。
オレは修行に戻るルーファスの背中を見送った後、勉強部屋へと踵を返した。…のだけど。
またもやルーファスとアシュレイが、オレ絡みで衝突する事になろうとは…。
知る由もないオレは、ただひたすらに。
本の山へと立ち向かうのだった。
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