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「アシュレイ殿…!セツにそのような物言いをするのは…」 「おや、どうして?別に他意はないのだけどなぁ。」 一体何がイケナイないのかな?…と。 からかうよう苦笑するアシュレイに、ルーファスはたじたじ。 どうやらアシュレイの方が年上で口達者な分、一枚上手なようだ。 「君だってそう思うだろう?…思った事は、きちんと言葉にして示さなくちゃ。本音は伝わらないものだよ?」 意味深に笑うアシュレイに、オレは意図が読めず首を傾げる。ルーファス自身は、その言動に何かを察したのか…顔を真っ赤にし、俯いてしまった。 「君は素直で分かり易いのだけどねぇ。もう少し柔軟にならなきゃ…横から誰かに盗られても、文句は言えないよ?」 こんな風に────…悪戯に目を細めたアシュレイが、いきなりオレの手を取ってきて。 なんだろって成り行きに任せていたら。いつぞやのルーファスみたく、けれどわざとらしくチュッ…と音をたてて。 手の甲にキス、されてしまった。 「なっ…!」 「じゃあね、セツ~。」 わなわなと拳を握り、顔を引き攣らせるルーファスを置き去りに。アシュレイは間延びした様子で、バイバイ~と手を振り去って行く。 怒りとも戸惑いともとれるような、複雑な面持ちを浮かべるルーファスは。彼のその背が見えなくなるまで、じっと其方を凝視しながら立ち尽くしていた。 「なっなんだったんだ、アシュレイのやつ…」 や、オレより年上なんだけどさ…。 騎士ってもんは、みんなこんな感じなのかな? ルーファスとは、全然タイプが違うけども。 なんていうか、結構大胆なとことかさ…。 「…えと、ルーファス?」 呆れと恥ずかしさで、ごちゃごちゃした頭を振り払うため。突っ立ったまんまのルーファスを見上げると…。 ビクリと反応した彼の目に捕まり、何故か動けなくなる。 「ど、どした…の?」 もどかしいような、切ないような…哀愁を帯びた表情で。これほど顔の整った美形に、じっと見つめられるというのは…なかなか慣れるもんじゃなくて。 オレの体温は、軒並み急上昇していく。 切羽詰まって、もう一度名を呼んだら。 ルーファスは小さく肩を揺らすと…ようやくして反応を示してくれた。 「セツ…」 「あっ、」 先程アシュレイにキスされた手を掴まれ、引き寄せられて。不意に距離が近付き、心臓が飛び跳ねる。 ルーファスは何かを言い掛けては、すぐ口を噤んでを繰り返すけど…。結局は物言わぬまま、オレの手を見つめ押し黙ってしまった。 「ルー…?」 様子のおかしいルーファスに。 だんだん心配になってきて、堪らず声を掛ければ。 「いや、すまない…」 なんでもないからと。苦笑う彼は、言葉とは裏腹に…やはり元気がないように思える。 どうしたんだろ? さっきまでは、アシュレイとも普通に喋ってたのに。実は元々、仲が良くないとか────… でも、そんな風には思えなかったけどなぁ…。 「…セツ?」 「えっ…ああ、なんでもないよ!」 気になって、じぃ~…っとルーファスを見上げてたら。いつもの困った顔で笑われれてしまい、オレも慌てて首を横に振る。 「あっ…そろそろ勉強に戻らないと…」 「そう、か…ならば私も、セツを見習うとしよう。」 まだ出会って3日目。 ルーファス達の関係性とか、彼ら個人のこと。 国とか、そういう階級のある世界では。 オレには計り知れないようなしがらみとか、複雑な何かがあるのかもしれない。でも… (もっと、知りたい…) ルーファス達のこと、そしてみんなが住まうこの世界のことも、ちゃんと。 さっきまでのふたりの遣り取りや、険悪な様子が…ちょっと気になってしまったし。優柔不断で面倒くさがりなオレにしては、珍しいことだけど…。 そんな意欲に駆られて。 オレは修行に戻るルーファスの背中を見送った後、勉強部屋へと踵を返した。…のだけど。 またもやルーファスとアシュレイが、オレ絡みで衝突する事になろうとは…。 知る由もないオレは、ただひたすらに。 本の山へと立ち向かうのだった。

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