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ep. …Another 女王陛下と密談中?

******** 宮殿内、謁見の間にて。 オレの知らぬ間に、実はこんな遣り取りが行われていた…らしい。 『…────という経緯なのですが…』 『そうですか…』 恭しく跪き、今しがた得たばかりの“神子”に関する出来事への報告するのは、ヴィンセントであり。 それを食い入るよう、聞き入っていたのは勿論…────女王陛下様。 話が終わると、真剣だった女王の相貌は見る間に崩れていき… 『んもうっ…!何故(なにゆえ)(わたくし)をその場に呼んで下さらなかったのかしら!!』 何がなんでも馳せ参じましたのに~!…と、女王とは思えぬ様子で悶絶するアリシアに。 ヴィンセントは、然もコレが日常だと云わんばかりの無表情で以て…淡々と答える。 『陛下は公務の真っ最中でしたので。最近では神子殿に気を取られ、お務めが少々疎かになっているとも…お伺いしておりますが?』 『ああ…なんて素敵な展開なのかしら!神子が初の殿方というだけでも、私の胸は激しく高鳴りましたのにっ。しかもあの清廉潔白なルーファスが、セツ殿に興味を抱いているだなんて…』 アシュレイのニクい演出も堪らない────… 部下の鋭い突っ込みも完全スルーし。 目前で妄想に花咲かす者が、自国の女王であるのだと…認識はしているヴィンセントだが。 これが世に名を轟かせる名王だと思うと、ぶっちゃけ残念極まりないなと…盛大に嘆息してみせる。 まあ、それも初めて対面を果たしてから随分時が経ち。すっかり慣れてしまったことだったが…。 『美しい騎士達が、男神子を巡り対峙する構図だなんて。考えただけで卒倒してしまいそうですわ…』 私の目に、狂いは無かった。 そう断言する女王を、否定こそしないヴィンセントではあるものの。 果たしてその選定方法が、真に守護騎士としての資質を買われてのものなのか。はたまた、顔ありきであったのか───… 結局のところ、それは神の啓示を受けたという女王のみが知るところ。ツッコんだとて、余計に話がややこしくなることは間違いないので。 彼はあくまでもスルーを決め込んだ。 『アシュレイ殿は、ああ見えても騎士としては大変優秀なお方。今後も職務に対し、問題は無いかと思われますが…』 その辺りの(わきま)えは、最低限心得ているであろうから大丈夫だとは思うが…。もうひとつの問題、神子に外出を許可するか否かとなれば…話は別モノ。 ヴィンセントはそう主張したのだが… 『あら、それは良くありませんわ~。セツ殿には、我が国…いいえ、この世界を救って頂くのですよ?突然神子に仕立てられた挙げ句、知りもしない国を守れというのは…浅はかではなくて?』 何も知らぬ神子に、正義だ宿命だと都合の良い事だけを(うそぶ)いて。そうやってただ押し付けるのではなく、あくまで本人の意志を尊重する。 ならば、まずは知って頂くのが道理ではないかと。 確かに、女王の考え方には一理あるなと。 その場は素直に賛同の意を示す、ヴィンセントだったが…。 『敢えて危険に身を投じ、苦難を共に乗り越えていけば───…きっと神子殿と守護騎士の絆も深まり。延いては愛情までもが育まれ…なぁんてことに、なるかもしれませんものね!』 『……………』 これさえなければ。表情には一切出さない彼だったが。 心中では、実に残念だな…と。 この方が担うであろう、国の行く末を案じ… 彼は密かに嘆いていた。 ───…と、神子の居ぬ間に、こんな会話がなされていただなんて。オレが知る由もないまま…未来はまさに女王の思惑通りに、動き始めていようとは…。 『私も神子殿の御屋敷に、お泊まりしようかしら…それが無理でしたら侍女に扮してでも───』 『なりませぬよ、陛下…』 このことに関しては、暫く皆には伏せておこうと… ヴィンセントは人知れず心に留めるのであった。

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