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ep.5 原石は磨けば輝く①

「はあ、はッ…も、無理ぃ…」 未だ城下への外出許可が下りないオレは、毎日の如く本とにらめっこ状態。 凝り固まった脳ミソと平行して、鈍っていく身体に。気分転換も兼ね、運動をしようと年少組の訓練とやらを体験してみたのだが… 「ほんっと神子って体力ねぇんだな~。」 ズバリ幼児以下だと辛口評価するジーナに、返す言葉が何も浮かばない。 …てかもう考える気力すら残されていない。 いきなり魔法だ剣術だなんてのは、平和ボケした現代っ子のオレにはハードルが高過ぎるから。 屋敷の外れ、いつもみんなが訓練に使ってる広場の奥にある林の中で、追いかけっこみたいなことをしてみたのだけど…。 オレの範疇(はんちゅう)を遥かに凌ぐ、ふたりの身体能力は。そのあどけない容姿を見事に裏切るほどに、圧倒的で。 …要は年上のオレが、全く歯がたたなかったというわけである。 「仕方ない…ハァ、だろっ…」 整備されてるとは言え、生い茂る木々の合間をスイスイすり抜けてく年少組を、必死に追い掛けるオレ。 よーいドン!で始まったハズが、一瞬でふたりを見失い…。林の中を全力で走ろうものなら、木の根っこや石に足を取られ盛大に転倒する始末。 走れど走れどふたりに追い付くハズもなく、5分も走らぬうちに息は絶え絶え───…オレは早々とその場に崩れ落ち、現在に至るというわけだ。 や、これ絶対に筋肉痛になるヤツだ…。 「大丈夫、セツ?」 一向に姿を見せないオレを心配し。引き返して来たロロが、しゃがみ込んでオレの顔を覗き込む。 ジーナに関しては呆れたよう、溜め息を吐いていた。 「うう…」 こんな華奢で可愛らしいロロにさえ、敵わないだなんて…。住む世界が違うんだから、仕方ない部分もあるんだろうけどさ。 男としては、やっぱ情けないわけでして。 なけなしのプライドは容易く崩れ去り…とはいえ、ロロに手を借りねば起き上がれない始末。 ひょいって軽く起こしてくれちゃうけど、ロロってば意外と力あるんだよね…。 「俺ら守護騎士がいるからって、甘えてらんねぇからな?いざって時のためにも、ちったぁ鍛えとかねーと。」 野郎に襲われても知らねーぞ?…そう、ジーナはゲラゲラと笑い飛ばす。 や、ソレ冗談に聞こえないから… 「そうだよね。ボクらも万能ってわけじゃあないもんね。」 苦笑するロロは、それでも頑張って守るからね!と、可愛らしい仕草で嬉しいことを言ってくれる。 確かに、ふたりの言う通り。最終的に神子は、奇跡の力を得ると言われてるけど。まだまだ現時点でのオレは、限りなく無能なわけでして。 勉強も始めたばかり、加えて体力面も考慮しなきゃかなぁと。単なる気分転換のつもりが、更にまた別の課題を見つける羽目となり…。 絶望するオレは疲労感も重なり、大袈裟なくらいガックリと項垂れるのであった。

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