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『セ~ツ~!』 「っ……!!」 その時、逃げて来た方向からロロ達の声がして。 我に返ったオレは、無意識にルーファスを見上げる。 ここはやはり逃げるべきか、なんて考えてたら… 「こっちだ。」 そう言ってルーファスはオレの肩を抱いたまま、目の前の部屋へと素早く(いざな)う。 扉が閉まると…カーテンが閉じられた室内は、すぐさま薄暗闇に包まれた。 「るっ…」 「静かに…」 開きかけた唇を、指先で封じられて。 ふにと触れられたそこが、妙に熱く…じわりと、胸を焦がしてく。 『あれ~、こっちの方へ逃げたと思ったけどなぁ~…』 部屋のまん前、扉の向こうではロロとジーナのくぐもった会話が聞こえてきて。 ドキドキしながらも暫く息を潜めていると… それは次第に遠ざかって行った。 「…行ったようだな。」 「ふぇ!?あ、うんっ…」 珍しくも悪戯に笑うルーファスに、オレはひと安心とばかりに息を吐く。…けれど、 「────…で、どうしてセツは…そのような姿に?」 …それも束の間、コイツはどう足掻いても見逃がしてはくれないから。 さすがにオレもこれまでだと、観念して。 少々かいつまんではみたものの…これまでの経緯を、ぽつりぽつりと打ち明けていった。 話終わると、ルーファスは眉間に皺を寄せてしまい。なにやら考え込んでいたけども…。 「ならばもう…アシュレイ殿には、見せてしまったということ…か?」 「え…?」 女装に至った詳細云々よりも、ルーファスは何故かアシュレイのことのが気になったみたいで。 いつになく真剣な眼差しで、オレに答えを要求してくる。 「や、その前に…逃げて、来たから…」 ルーファスには結局、見つかっちゃったんだけど…とは言えないが。 濁しながらもそう答えると、コイツは安心したよう溜め息を漏らした。 「そんなダメなのか?…アシュレイに見せんの。」 素朴な疑問をぶつけると、当然だと声を張るルーファス。やはりアシュレイとは、馬が合わないのだろうか? 「アシュレイ殿は、駄目だ…。…いや、違うな…」 首を振り、オレの頬に触れてくるルーファス。 その真っ直ぐな瞳に、オレは一目で心奪われる。 「このように、可憐な姿のお前を…」 “私が見せたくないから────…” それは普段見ることの無かった、ルーファスの我が儘な一面で。 「すまない、これは私の独り善がりだな…」 謝罪を口にしながらも、まるで束縛するみたくぎゅっと抱き締められて。 甘い甘い空気に、このまま流されてみたいだとか。つい、思ってしまうから…ダメなの、に。 (もう、どうしよう……) この世界に来て、ルーファスに出会ってから… オレはどんどん変になっていく。 それでもまだ、ほんの数週間でしかないのに。 コイツとの時間はほんの僅かな時でさえ、永く濃密で。 歯止めを知らず、ぐんぐん加速して際限なく… 内へと刻み込まれてくから。 (なんで、だろ…) 怖い… ちょっと前まで失恋だの何だのと、騒いでたのが嘘みたいに。今のオレは、既にコイツで埋め尽くされようとしてる。 だからなのかな…? もしも突然、元の世界に戻されたらとか…コイツが目の前からいなくなってしまったら、とか…。 考えれば考えるほど、この瞬間が失われるかもしれないという不安を。 抱かずには、いられないのだろう。 「セツ…?」 そんな不安の表れか、無意識にルーファスを掴んでた腕が少しだけ震えてしまってて…。 察したルーファスが、宥めるよう優しく抱き締めてくれる。 ホントどうしてだろう? ルーファスが相手だと、男同士でこんな風にくっついてても、全然嫌じゃないし。 むしろもっと、こうしてたいなって…欲まで出てきちゃうから。 不思議だな… 「ルー…」 「どうした?」 子どもみたく、甘えるようルーファスの胸に擦り寄り、願う。 「ずっと…」 「ん…?」 けどそれは、容易く口に出せるほどの保証も自信も…何処にもなくって。 「いや、なんでもないよ…」 「セツ…?」 弱すぎるオレの心では。 結局、言葉として紡ぐことは叶わなかった。

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