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「まだ時間には早いな…」 広場の時計を見やれば、ヴィンセントが定めた門限には少し余裕があって。どうしようかと、ルーファスから訊ねられる。 店は散々回ったし。あんま見てるとルーファスにまた、お金使わせちゃいそうだからなぁ…。 それならのんびり出来そうな場所とか、落ち着けるような観光名所でもあれば、案内してもらおうかなぁと。そう、答えようとしてたら… 「何やら騒がしいな…。」 露店が軒を列ねる繁華街の方角から、人々が言い争うような、悲鳴じみた声が聞こえてきて。 そちらを行き交う人達は皆、野次馬と化し…騒ぎの方へと引き寄せられて行く。 「…見に行かなくていいのか?」 段々大きくなる喧騒が、性格的に気になってしまうのか…。オレを見ては考え込んでしまうルーファスに、声を掛けてはみるけれど。 オレを危険に晒すわけにはいかないから…と。 ルーファスは言いながら語尾を濁す。 けどオレはルーファスが、誰よりも正義感が強いヤツなんだって知ってるから。 「気になるんだろ?行って来いよ。オレはここで待ってるからさ。」 「だが、」 「子どもじゃないんだから、ちょっとくらい平気だってば。」 ちゃんと待ってるからと、背中を押せば。 渋々ながらも立ち上がるルーファス。 「…すぐ戻る。」 絶対にここを離れるなよと強く釘を刺され、分かったからと返事をすれば。 ルーファスは人ゴミの中へと、足早に消えて行った。 「─────ちょっと遅い、なぁ…」 しかし10分以上経っても、ルーファスは戻って来なくて。未だに騒がしい方角を認めながら、ひとり待ち続ける。 あのルーファスが行ってもまだ、収拾が着かないと言うことは…。単に酔っ払い同士の喧嘩とか、引ったくりだのの騒ぎでは…ないのかもしれない。 アイツが相当強いのは、いつも稽古してる姿を見てたから。素人のオレでも良く解ってたんだけど…。 だとしてもやっぱり、不安は募ってしまうのだった。 (動くなって、言われたけど…) じっと待ってるだけじゃ落ち着かなくなり、オレはベンチから立ち上がる。 ルーファスが向かった先は、賑やかな通りでほぼ一本道だったはず。裏道にさえ入らなければ、迷うこともないだろうし…。 もしかしたらルーファスとも、すぐ落ち合えるかもしれない。 知らない土地で、初めて味わう孤独感。 こんなに賑やかな街の中なのに。 ルーファスと少し離れただけで、オレはこんなにも寂しくて…堪らなくなる。 そうなると、今すぐにでもルーファスの顔が見たい────…なんて衝動に、駆られてしまうから。 オレは無意識にもアイツが向かった先へと、踏み出すのだった。

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