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⑨
(人が多いな……)
騒ぎの野次馬でごった返す通りは、思いの外歩きにくく。なかなか前へ進めず、早々に足止めを食らってしまう。
唯でさえ見通しの悪いフードを、目深に被っていた所為もあってか…余計に周りが見えなくて。
混雑する中を必死で掻き分け、ルーファスの姿を探した。
「わわっ…!」
ルーファスを追って来たことを、若干後悔し始めた頃…。不安というのは大体的中するもので。
犇めく人波に、いとも容易く拐われていくオレは。意思とは真逆に…あれよあれよと道の隅へと押し流される。
そうして気付いた頃には、薄暗い路地裏へと吸い寄せられるようにして。勢い良く弾き出されてしまうのであった。
(う、わぁ…)
闇の世界は表裏一体。
光ある場所には必ず存在するもなのか。
活気に溢れ、賑わう大通りを一歩踏み違えただけで…
「んだ、テメェ……」
人は一瞬にして、命の危険に晒されることとなる。
「お前…ここが俺らのシマだと知らねぇのか?」
ああ?とヤクザみたいに厳つい顔の男が1人また1人と、何処からともなく湧いて出てきて…。
気付けば退路も阻まれ、あっという間に取り囲まれてしまう。
「女……じゃねーのか?」
「ひッ…」
腰が抜けて、立てずにいると…。近付いてきた男に、グイと顎を掴まれて。
男だと判れば忽ち不機嫌になり、舌打ちと共に地面へと唾を吐き捨てられた。
ざっと見ても10人以上…どの男もオレより遥かにデカく、強そうで。ガタガタと震えながらも、本能的に逃げ場を求め…必死で辺りを見返す。
…と言っても、視界は既に四方全部を囲まれてるんだから。逃げ場も何も、あったもんじゃ無いんだけど…。
「おい、ちょっと待て。」
なるべく正体がバレないよう、フードを目深に顔を伏せ。どうにか遣り過ごさなきゃって思ってたのに。
ひとりの男が何かに勘づき、ズカズカとオレの方へ近付いてくる。
…────と、いきなりローブに付いてたフードを乱暴に鷲掴まれてしまい。
オレが抵抗する間も与えられぬまま…
ソレは呆気なく、晒されてしまうのだった。
「コイツ、黒髪じゃねぇか…!!」
オレの顔…いや髪色を見るなり、ざわつき出す男達を前に。絶体絶命…これはかなりヤバいんじゃないかと、内心冷や汗を流す。
「最近神子が現れただなんて噂話が、色々と飛び交ってたが…」
下卑た笑みを湛え、オレを舐め回すかのよう値踏みする男達は。更に豹変し、血生臭い獣のような本性を露にする。
「ッ…いッたぁ…!」
するとコイツらのボスらしき男が前に出て、顎で合図を出せば…。
すかさず背後に控えてた奴らに、腕を拘束されてしまい。背中でグイと捻られるオレは…苦痛に思わず、声にならない悲鳴を上げた。
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