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(ああ…) 夢、なのかな…?…そう思いたくなるほどに。 これはオレにとって、都合が良すぎる気がする。 だって、 「貴様…セツから離れろッ!」 「ぐあッ…!!」 「ヒィィッ…!!」 オレが焦がれて止まないアイツが…すぐ目の前にいるんだから、さ。 「騎士は1人だ、潰せッ…!!」 何処からともなく現れたルーファスに向かって、男達が闇雲に襲い掛かる。 軽く10人はいるであろう、大柄なならず者達と対峙してるにも関わらず。それでもルーファスは、未だに剣を抜こうとはしない。 むしろ武器など必要無いのか… まるで舞でも踊るかのような、洗練された身のこなしで以て。次々に男達を捩じ伏せていくのだから───凄い。 オレから見ても、まさに圧倒的な戦力差。 気付けば束の間、この場にいた男達全員が一瞬にして地へと伏され… 音もなく、力尽きていたのだった。 (ああ…) 「セツ…!!」 オレの元へ急いで駆け寄るルーファスを、ぼんやりと見上げて。 「ルー…?」 「すまない、セツ…」 何故だかルーファスは、今にも泣きそうな声でオレの名を呼び。恐る恐る伸ばした手で、割れ物でも扱うかのよう…そっと自身の胸の中へと納め、触れてくる。 その身体は、先程までの勇ましさがまるで嘘みたいに。オレを広く包み込みながらも…小さく小さく震えていたんだ。 「私が守ると、誓ったのにっ…」 罪の意識に苛まれる、ルーファスの腕に抱かれ… 徐々に甦る恐怖。 安堵に包まれたのもほんの一時(いっとき)、途端に身体は負の感情に蝕まれ… オレは嗚咽を漏らし、泣き出してしまう。 「るっ、ファスっ…!」 成人した大の男が…なんて今は構ってられなくて。 激痛が走る腕で、ルーファスへと必死にしがみつく。 取り乱すオレに、ルーファスは更に顔を歪めてしまうけれど…。応えるかのよう、ぎゅっと抱き締め返してくれた。 「セツ…本当に、すまない…」 「ごめっ、おれ、おれッ…!」 お前は何も悪くない…オレが言い付けを破って、勝手に行動しちゃったんだから。 なのにお前は自らを諌め、何度も何度も謝罪を口にする。 オレだって、お前には笑ってて欲しいんだ。 こんなふうに苦しそうな顔なんて、絶対させたくなかったのに…。 そう伝えたくても、さっきまでの惨劇の所為で、身体は全くいうことを利かなくて。 どんなに口を開こうとも、漏れ出てしまうのは…涙と嗚咽でしかなかった。

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