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⑫
(ああ…)
夢、なのかな…?…そう思いたくなるほどに。
これはオレにとって、都合が良すぎる気がする。
だって、
「貴様…セツから離れろッ!」
「ぐあッ…!!」
「ヒィィッ…!!」
オレが焦がれて止まないアイツが…すぐ目の前にいるんだから、さ。
「騎士は1人だ、潰せッ…!!」
何処からともなく現れたルーファスに向かって、男達が闇雲に襲い掛かる。
軽く10人はいるであろう、大柄なならず者達と対峙してるにも関わらず。それでもルーファスは、未だに剣を抜こうとはしない。
むしろ武器など必要無いのか…
まるで舞でも踊るかのような、洗練された身のこなしで以て。次々に男達を捩じ伏せていくのだから───凄い。
オレから見ても、まさに圧倒的な戦力差。
気付けば束の間、この場にいた男達全員が一瞬にして地へと伏され…
音もなく、力尽きていたのだった。
(ああ…)
「セツ…!!」
オレの元へ急いで駆け寄るルーファスを、ぼんやりと見上げて。
「ルー…?」
「すまない、セツ…」
何故だかルーファスは、今にも泣きそうな声でオレの名を呼び。恐る恐る伸ばした手で、割れ物でも扱うかのよう…そっと自身の胸の中へと納め、触れてくる。
その身体は、先程までの勇ましさがまるで嘘みたいに。オレを広く包み込みながらも…小さく小さく震えていたんだ。
「私が守ると、誓ったのにっ…」
罪の意識に苛まれる、ルーファスの腕に抱かれ…
徐々に甦る恐怖。
安堵に包まれたのもほんの一時 、途端に身体は負の感情に蝕まれ…
オレは嗚咽を漏らし、泣き出してしまう。
「るっ、ファスっ…!」
成人した大の男が…なんて今は構ってられなくて。
激痛が走る腕で、ルーファスへと必死にしがみつく。
取り乱すオレに、ルーファスは更に顔を歪めてしまうけれど…。応えるかのよう、ぎゅっと抱き締め返してくれた。
「セツ…本当に、すまない…」
「ごめっ、おれ、おれッ…!」
お前は何も悪くない…オレが言い付けを破って、勝手に行動しちゃったんだから。
なのにお前は自らを諌め、何度も何度も謝罪を口にする。
オレだって、お前には笑ってて欲しいんだ。
こんなふうに苦しそうな顔なんて、絶対させたくなかったのに…。
そう伝えたくても、さっきまでの惨劇の所為で、身体は全くいうことを利かなくて。
どんなに口を開こうとも、漏れ出てしまうのは…涙と嗚咽でしかなかった。
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