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⑭
「落ち着いたか…?」
「えっ…ああ…う、うんっ…」
カッと顔中に熱が集まり、堪らず俯くオレ。
うあああ…コイツ、いきなりなんてことをするんだバカッ…
「良かった、私はお前の涙に弱いから…」
くしゃりと笑うルーファスに、内心ドキドキしまくりのオレ。
ひっ…人の気も、知らないで…
ルーファスは相変わらずの天然ぶりで、オレの心を易々と惑わせる。
「だ、だからって…い、いきなりキスはないだろっ…!」
「え…キッ…───や、決してそんなつもりではっ…」
やっぱり解ってなかったのか、こんにゃろめ…。
オレに言われてようやく自覚したのか、ルーファスも見る間に顔を赤らめてくるもんだから。
釣られたオレもお互い様。ふたり揃って耳の先まで真っ赤っかになってしまった。
「もう…こんなんじゃ、勘違いするだろ…」
「勘違い…?」
なんでもないよ!と誤魔化して、ぼすんとルーファスの胸に顔を埋 めてやる。
あんなコト…を、しれっとやっちゃうくせに。
コイツはオレからのスキンシップには、かなり弱いみたいだからな…。
悪戯にぎゅーってして、頭をグリグリ押し付けてやったら。案の定、狼狽え出しちゃったよ。
擦り寄ると、ルーファスの心臓もオレとおんなじぐらいドキドキしてたかのが判っちゃったから…。
仕返しだとかいいながら、本音は嬉しいとか思ってしまったんだけども。
(どうせなら───…)
ちゃんとキス…してくれれば良かったのに、なんて。自身の唇に触れながら…一瞬でも戯れに、図々しいことを願ってしまい。
そんな痛い下心を、無理やりに振り払う。
「これから、どうするの…?」
辺りを見渡しながら…オレの所為で、こんな大騒ぎを起こしてしまったし。さすがにもうデートは終わりだよなって…しんみりと見上げたら。
まるでルーファスも、同じことを思ってたんじゃないかってくらい寂しそうな顔をして、苦笑う。
「そう、だな…。とりあえず、この場は警備隊に任せるとして…」
オレは何気に傷だらけ、服もボロボロにされて今は裸に近い状態だしね…。
怪我の手当てもあるし、この件についての報告だって、しなきゃいけないだろうから。
後ろ髪を引かれながらも、このまま屋敷へ戻ることになってしまった。
「無理をするな、セツ。辛いようなら、馬車を用意して───」
「んん…歩けるから、へーきだよ。」
ふらつく身体を、ルーファスが支えてくれる。
どこもかしこも痛かったけれど、思ったよりかは動けそうだ。
騒ぎを聞きつけ集まってきた警備隊が、男達を連行し。ルーファスは慣れたよう事情を掻い摘んで説明し、それらを見送って…。
ようやくオレ達も帰路へ向け、歩き始めた。
既に陽は傾き、空はほんのりとだけ赤みを帯びている。その空を背景に、ルーファスの顔をふと仰ぎ見て。
「なあ、ルー…?」
一度認めてしまうと、案外と人は大胆になれるもので。オレは思い切って、ルーファスの手を握ってみる。
「こうしてれば、さ…」
もう絶対に、はぐれたりしないよなって…
夕焼け色に染まる頬を隠しながら、悪戯に笑ったら。
「…そう、だな。」
ビクリとして、ルーファスは一度目を見開いたけど。次には困ったよう、はにかみながらも…オレを優しく映して。
応えてその手をぎゅっと、握り返してくれたんだ。
─────その夜、オレは夢を見た。
それは始め、とても怖いものだったんだけれど。
最後には、愛しい人の腕の中にオレはいて…
微睡みながらもオレは彼に『恋』をしたのだと。
改めて、自覚するのだった。
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