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歴史上…神子は今まで、女の子しか召喚されてこなかったという。 今回はたまたま、オレが男だったってだけで… アイツのオレに対する物腰は、女性と接する感じそのものだ。 あんな風に優しくされると、それと解ってても勘違いしそうになる。 …ていうか、もう手遅れというか…好きになっちゃってんだけど、ね…。 「ン……」 だから今見てるこの夢も、オレにとって都合のいいものなんだろう。こうして触れられたいって欲が、リアルな夢を作り出して──── 「────…って、夢じゃないいぃぃ!?」 ンギャ~ッ!!と色気のない悲鳴を上げ、勢いよく起き上がると… 「おはよう、セツ。」 何事もなかったよう、爽やかに挨拶をかます… 我が愛しの騎士様ルーファス様。 寝起き早々、思いがけぬ状況に気が動転して絶句するオレは。顔中真っ赤にさせながら、金魚の如く口をパクパクさせた。 「なっ…おま、」 なんでオレの部屋に────…って、そういえばコイツはずっと、こんな感じで毎朝起こしに来てくれてたんだっけ…。 「いくら呼んでも反応が無くてな…。昨日の怪我が、思わしくないのではと心配したんだが…」 そ、それは解ったけども! オレが突っ込んでるのは、ソコじゃなくてだな…。 「ああ──…は、だな…」 恥ずかしい状況に言葉が見つからず、枕を掴んであわあわしていると。オレの言わんとすることに、ようやく気付いたルーファスは。口元を押さえ、何やらを思い返し苦笑する。 「眠っていたセツが、苦しげにうなされていたので…」 顔を覗き込めば、オレが泣いていたのだと告げるルーファス。 「起こそうか迷ってな…とりあえず落ち着かせようかと思って、頭を撫でてみたのだが…」 そうしているうちに、今度は寝惚けたオレがルーファスの膝に擦り寄ってきて。いわゆる膝枕なシチュエーションになってしまったのだ、と。 さすがに困惑したそうだが、そのおかげでオレも落ち着いてきたらしく。膝で眠る様が、とても穏やかだったものだから… 「起こすには惜しいくらい、愛らしい寝顔だっからな。」 「なっ…!」 ハイ出た出た~、ルーファスの必殺無自覚タラシ攻撃っっ! それはものの見事にオレの心臓を、ムギュギュッと鷲掴み。直撃を食らわされたオレは、ぼふんと顔から火を放つ。 「もう、おまっ…ズルイだろソレっ…」 溢れそうになる感情を誤魔化すよう、大袈裟に喚き散らすと。それを拒絶と捉えたのか、ルーファスは途端に表情を曇らせて。 「嫌、だった…か?」 すまないと頭を下げ、しゅんとしてしまうルーファス。 相対するオレはもう、今すぐにでも本音をぶちまけたい衝動に負けちゃいそうで…正直いっぱいいっぱいだった。

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