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⑮
「そういえば、ここんとこセツが調子悪そうだってルーが朝から話してたけど。お前、大丈夫なのか?」
「そうなの、セツ?」
「あ、えっ…と……」
心配する年少組が、オレの顔を覗き込んできて。
オレは、つい言葉を濁す。
「言われてみれば、顔色もあんま良くねーみたいだし…。とりあえず横になって休んだらどーだ?」
珍しくジーナがオレを労ってくれて。
屋敷内へと手を引いてくれる。
具合が悪そうとか、あの夜ルーファスが勘違いしただけだから。別に病気ってわけじゃなかったんだけど…。
そうこうする内、弁解のタイミングを失ってしまったオレは。ズルズルとふたりに引き摺られるようにして、自室へと連れて行かれた。
「ほら、早く横になってセツ。」
年下ふたりに優しく介抱され、オレは言われるがままベッドへと横たわる。
さて、この状況をどうしたものかと。
居たたまれなさに、あーだこーだと考えを巡らせていると…。
「セツが具合悪いなら、今日のパーティーは無理そうだね…。」
思いがけず、ロロが口にした台詞に。
狡 くも邪 な考えが浮かび上がる。
これって…
「だなぁ。パーティーなんて行ったら、余計疲れるだけだし。仕方ねぇんじゃねーの?大事な神子の身体になんかあったら、それこそ大騒ぎになっちまうだろうしさ。」
逆に良かったじゃん~と、苦笑するジーナに。
オレはドキリとしながらも、曖昧に返事をする。
それがまた、具合が悪そうなのを助長したみたいで…。2人は然して疑うこともなく、
「ルー達には、セツが具合悪くて行けなくなったって伝えとくからよ。」
「セツがいないのは寂しいけど。ボクらまで欠席するわけにはいかないもんね…。パーティーの事は気にせず、セツはゆっくり休んでね!」
そう言い残して、あっさりと部屋を出て行ってしまった。
(やって、しまった…)
いけないことと知りつつ、内心ほっとしてしまうオレは。布団を目深に、隠れて大きな溜め息を吐く。
すごく心配してくれたふたりを騙すとか、大人げないとは思うのだけれど…。
(ルーは…)
なんて思うだろう?
もしオレがこのまま、パーティーに行かなかったら。女王様もずっと楽しみにしてたし、きっとガッカリするんだろうな…。
まあ実際、オレなんかが行こうが行くまいが、守護騎士さえパーティーに集まれば…女の子達は大喜びだろうし?
結局アイツがチヤホヤされんのには、変わりないんだから…。
(情けないなぁ、オレ…)
大勢の前で、未だ無能でありながら“神子”という…この世界で最も神聖な存在として身を晒さなければならないことへの、恐怖心。それと…最近自覚したルーファスに対する醜い独占欲に駈られて。
元々強くない心臓は、いとも容易く押し潰されそうになる。
ただでさえ、神子としてこっちに来てから結構経つのに。まだ何の成果も、その兆しさえ無い焦りも多少あったし…。
身の危険が常に纏わりつくリスクだって、先日嫌ってほど思い知らされた。
それだけじゃない、まだ見えない先への不安。
得体の知れないこの世界での時間は、一体いつまでオレに許されているのか…。
永く知れば知るほど、それは更に膨らんでくから。
(ルー…)
こういう時ほど、アイツを思い出す。
今すぐ傍に来て…その腕で抱き締めてもらえたなら。
どんなに心強いことだろう。
(…ッ………)
罪悪感に苛まれながら、独りベッドに蹲 る。
後悔したところで後の祭り、今更後戻りする勇気もない…卑怯者のオレは。
罪に苛まれながら、ひっそりと孤独に涙を流した。
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