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「ん……」 目覚めたら、時計は日暮れをとっくに過ぎていて。 窓の外から微かに聞こえる、華やかな宴の音に誘われるように…。オレはのそりとベッドから起き上がった。 泣いてた所為か身体はどんよりと重く、なんだか頭がズキズキとして痛い。 ガラス越しに外を見やれば、いつもより沸き立つ宮殿の方へと嫌でも意識が向いてしまい。 会場となるダンスホールの外観は、眩くライトアップされているようで…遠目からでも、そこに集う人々の活気が判るくらいに。賑やかな雰囲気を醸し出していた。 暫くすると、メイドさんがオレの様子を見に来てくれて。体の具合や、食事はどうするのかとか、色々聞かれたけれど。 さすがにそんな気分には、なれなかったから… 大丈夫とだけ伝えて。申し訳ないと思いつつも、そのまま部屋に引き籠ることにした。 みんないないからか、いつもより屋敷内が静かに感じられて。その異質な静けさが…罪悪感に駆られるオレの心を、余計に追い詰めていく。 (今頃は…) パーティーも既に始まってるだろうから。 アイツもきっと誰かに誘われて、ダンスくらい踊ってるかも…なんて。 ルーファスが、紳士な振る舞いで女の子をエスコートして。優雅に舞う姿が、いちいち想像出来てしまうから… 自己嫌悪に苛まれ、消沈する。 だって男のオレが、アイツとダンスだなんて。 まず、叶わないだろうから…。 (あ…) ふと目についたのは、部屋に置かれたままのドレス達で。なんとなく近付き、それを手に取ると。 ぼんやり眺めながら、考え耽る。 (オレがもし、女の神子だったら…) 仮病なんて使わず、喜んでこのドレスを着てさ。 ウキウキしながら、パーティーにだって行けたかもしれないなぁ…と。 純白のそれを見つめながら、在りもしない妄想を膨らませる。 「そういえば、カツラもあったんだっけ…」 用意周到な女王様は、ロングヘアのカツラも作ってくれてて。オレに合わせて、わざわざ特注で黒髪に染め直したんだって。 それは楽しそうに話してたっけ…。 他にも愛らしいアクセサリーから、化粧品に至るまで。一通りの物を用意してくれたみたいだから。普通に考えても、まず女物のドレスなんて着るわけないのに…どんだけ着せたかったんだろなぁってさ。 女王様とのやりとりを思い出しながら、ひとり苦笑を漏らした。 けど… (ルーなら、) なんて言うかな?似合うって、お世辞でもあの時みたいに言ってくれるのかなっ…て。 そんなしょうもない欲に駆られてしまうオレは。 今までのオレなら、絶対あり得ないであろう…その行動を。あっさりと、引き起こしてしまうのだった。

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