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⑯
「ん……」
目覚めたら、時計は日暮れをとっくに過ぎていて。
窓の外から微かに聞こえる、華やかな宴の音に誘われるように…。オレはのそりとベッドから起き上がった。
泣いてた所為か身体はどんよりと重く、なんだか頭がズキズキとして痛い。
ガラス越しに外を見やれば、いつもより沸き立つ宮殿の方へと嫌でも意識が向いてしまい。
会場となるダンスホールの外観は、眩くライトアップされているようで…遠目からでも、そこに集う人々の活気が判るくらいに。賑やかな雰囲気を醸し出していた。
暫くすると、メイドさんがオレの様子を見に来てくれて。体の具合や、食事はどうするのかとか、色々聞かれたけれど。
さすがにそんな気分には、なれなかったから…
大丈夫とだけ伝えて。申し訳ないと思いつつも、そのまま部屋に引き籠ることにした。
みんないないからか、いつもより屋敷内が静かに感じられて。その異質な静けさが…罪悪感に駆られるオレの心を、余計に追い詰めていく。
(今頃は…)
パーティーも既に始まってるだろうから。
アイツもきっと誰かに誘われて、ダンスくらい踊ってるかも…なんて。
ルーファスが、紳士な振る舞いで女の子をエスコートして。優雅に舞う姿が、いちいち想像出来てしまうから…
自己嫌悪に苛まれ、消沈する。
だって男のオレが、アイツとダンスだなんて。
まず、叶わないだろうから…。
(あ…)
ふと目についたのは、部屋に置かれたままのドレス達で。なんとなく近付き、それを手に取ると。
ぼんやり眺めながら、考え耽る。
(オレがもし、女の神子だったら…)
仮病なんて使わず、喜んでこのドレスを着てさ。
ウキウキしながら、パーティーにだって行けたかもしれないなぁ…と。
純白のそれを見つめながら、在りもしない妄想を膨らませる。
「そういえば、カツラもあったんだっけ…」
用意周到な女王様は、ロングヘアのカツラも作ってくれてて。オレに合わせて、わざわざ特注で黒髪に染め直したんだって。
それは楽しそうに話してたっけ…。
他にも愛らしいアクセサリーから、化粧品に至るまで。一通りの物を用意してくれたみたいだから。普通に考えても、まず女物のドレスなんて着るわけないのに…どんだけ着せたかったんだろなぁってさ。
女王様とのやりとりを思い出しながら、ひとり苦笑を漏らした。
けど…
(ルーなら、)
なんて言うかな?似合うって、お世辞でもあの時みたいに言ってくれるのかなっ…て。
そんなしょうもない欲に駆られてしまうオレは。
今までのオレなら、絶対あり得ないであろう…その行動を。あっさりと、引き起こしてしまうのだった。
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