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「うーん、やっぱオレだよな…」 とりあえず誰も見てないんだし、みんな留守でいないんだから安全だろうと。開き直ってついついドレスに袖を通し、せっかくだからとカツラも被ってみたけど…。 黒髪ストレートと純白なドレスに身を包む、自身の姿を目の当たりにして。正直微妙じゃないかなぁ、と感想を漏らす。 どっちかっていうと、中性的な顔立ちだとは昔からよく言われてたし。髭とかも殆ど生えないから…男らしくはないっていう自覚もあったけれど。 似合ってんのかどうかは、また別モンだし。 自分じゃちょっと判断出来ないよね、コレは…。 「てか、何やってんのオレ…」 精神的に追い詰められたとは言え。 自らこんな奇行に走るなんて、ホントどうかしてる。 そう我に返り、急いでドレスを脱ごうとしたのだけど…。 「ん…?」 屋敷の外、遠くから馬の(いなな)く声がして。 気になったオレは、ついその姿のままバルコニーへと出てしまう。 見れば宮殿の方角、ものすごいスピードでやってくる影がそこにはあって。 闇夜の中、じっと目を凝らしてみると… 「あ…う、そ…」 なんてことだ… オレはまさかと目を疑い、愕然とする。 だってあれは、 「ルー、ファス…」 暗がりでも手馴れたよう、馬を巧みに操り。 屋敷のすぐ下まで、一直線にやって来た人物は。 まさかこんなこと、あり得ないだろって。 一瞬、目を疑ったのだけど─────… 「セツ…?セツ、なのか!?」 颯爽と馬から降りた人物、勿論ルーファスに名を呼ばれて。 オレの心は従順にも、一際熱く高鳴る。 「な…どうし、て…」 だって今頃は舞踏会に────けど、これは夢じゃなくって。 月明かりに照らし出されたルーファスは、きらびやかな衣装を身に纏い。深き海色の蒼髪は、いつもと違って後ろへと流しひと際色香を解き放ていたから…。 その姿まさに、童話に出てくる白馬の王子様そのもの。更に狙ったようなタイミングでの登場シーンといったらもう… 夢のような展開でしかなかった。 「…っ…今、そちらへ行く!」 オレを見上げた瞬間、何か言いたそうにするルーファスだったが。 タイミング良く鳴り始めた花火の音に遮られてしまい、歯痒げにその言葉を飲み込む。 それから焦れたように叫ぶと。 馬の手綱を引いて、足早に入口の方へと消えてしまった。 その間、思いもよらぬ状況に動揺しまくるオレは。どうしたもんかと部屋を落ち着きなく、うろうろするも… そういえば今オレの格好は─────そこでようやく気付いたけど…時既に遅し。 廊下には響く足音、それは早々とノックも無しに。 騎士様ルーファス様は、颯爽とオレの元へと…やって来てしまうのだった。

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