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⑱
「セツ…」
隠れる術も時間もなく、苦し紛れに背を向けたら名前を呼ばれて。オレは応えられず、ただびくんと肩を揺らす。
それからルーファスが、こっちへと近付いてくるのが判ったから…。徐々に迫る靴音に、一層胸が高鳴った。
「体調が優れないと、聞いたが…」
大丈夫か?…と、問い掛ける声がすぐ真後ろで聞こえる。
心臓が、今にも破裂しそうなくらいドキドキしてたけど…。それにはなんとか反応し、うんっと強く頷いてみせた。
するとルーファスは安堵したよう「そうか…」と一言告げ、息を吐く。
「お前は、なん…で…」
ここにいるのかと、今度はオレが問い返せば。
ルーファスは、さも当然だとばかりに答える。
「私が守護騎士の本分を忘れ、セツを独り残し娯楽に興じるなど…あってはならないだろう?」
あっさりと答えるルーファスだけど。
本当はさ、立場とか色々あるだろうに。
形振り構わず、オレなんかを優先してしまうなんて…。
どうしてお前は、こんなにもオレを…甘やかすんだろう。
「別にっ、気なんか使わなくても良かったのに…。こないだのっ───…お、女の子達だって。舞踏会にお前が来るの、楽しみにしてたじゃんかっ…」
優しくされると、素直になれない天邪鬼は。
無情と知りつつも、こうしてわざと突き放してしまうのに。
それでもお前は、オレをとことん甘やかしたいみたいで…
「…本音を言えば、私がただお前の傍にいたかっただけだ。」
後で親に叱られようが、女王様や重臣達にお咎めを受けようが。今ここにいたいと思う事が、己の意思に違いないのだから…と。
「もぉ、なんなんだよっ…!」
ほら、お前がバカみたく優しくすっから。
我慢出来なくなっちゃったじゃんか…。
堪らず泣き出してしまったオレを、後ろからルーファスが抱き締めてくれる。
そんなことされたら、いよいよ歯止めが効かなくなり。オレは自ら振り返り、その愛おしい人の胸へと遠慮なく顔を埋めれば…
恥も何も全部取っ払って。
潔くぼろぼろと、泣きじゃくっていた。
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