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「な、に…?」 きょとんとするオレを見つめ、手を差し出すルーファスは。 「よろしければ一曲、(わたくし)と踊って頂けませんか?」 「ッ……!」 まるでお姫様にでもするみたいに。 ルーファスはうっとりとした微笑みをオレへと向け、乞い求めてくる。 そんな願ってもない申し出とは云えど… 『ハイ喜んで!』などと、直ぐに返せるわけもなく。 どうしようかと、真っ赤な顔でモジモジしていたら…。 「わわっ…!?」 突然ルーファスの方から、手を引かれて。 そのまま優雅に歩き出したかと思ったら… 開けっ放しだったバルコニーの方へと、(いざな)われてしまった。 「ここならば、ダンスの音楽も聞こえるだろう?」 「え、でもっ…」 いきなりダンスを踊るとか。 そりゃあ、オレ的には大歓迎ではあるけども。 キラキラナイトなルーファス様との近すぎる距離感とか、メチャクチャ良い匂いするな~とか…。 頭ん中いっぱいいっぱいで踊るとか、まずムリなんですけど~!? それでもルーファスは気にすることなく、オレを優雅にリードしていき。 「大丈夫、私に全てを委ねてくれて構わないから…」 「っ……」 近い、ヤバい、ヤバい、 心臓の音、聞こえちゃうかも─────… こんなくっついてしまったらさ。 オレのダダ漏れな下心なんて、隠しようがないんですけどっ…。 されど真っ直ぐとオレだけに注がれる、ルーファスの熱い眼差しに。身も心も、すっかり捕らわれてしまったならば…。 次にはもう、そんな些細なことなんて… どうでもよくなってしまうんだ。 遠くから届く微かな宴の音楽に合わせ、共に舞う。 …と言っても、オレはただルーファスにされるがままだったけど…。そのおかげか、ちゃんとダンスになってるから不思議だ。 「やっと笑ったな…。」 「え?」 「お前のその…笑顔が見られただけで、充分だ。」 戻って来て良かったと、ルーファスは嬉しそうに笑う。 更には、 「それにまた────…セツの愛らしい姿を、独り占め出来たのだから…な?」 「なっ…!?」 …これがまさに、イケメンの余裕ってヤツだろうか。 オレの愛しの騎士様は、悪戯に微笑み。 砂糖菓子みたいな台詞を、次から次へとブン投げて寄越すもんだから。 言っとくけど、こんなバカみたいなカッコして喜ぶのなんて、お前くらいなもんなんだぞ? …そんなこと言ったら、ルーファスはまた否定してくれんだろうけどもさ。 だから… 「心配しなくても、こんな姿…誰にも見せやしないよ。」 ″お前以外には…″ 照れくさくて、わざとぞんざいに返したら。 ルーファスは一瞬黙って、目を丸くしたけれど。 「ならば、安心だな…」 答えるコイツは、嬉しそうに目を細めて。 月明かりに(やわ)く、はにかんで見せるのだった。

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