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ep.9 チカラの片鱗①
この世界に来て、1ヶ月以上は過ぎただろうか。
それはとても目まぐるしく、濃密な時間は本当にあっという間ではあったけれど…。
ほんの些細な時間でしかないのに。
何ていうか…ムダな時なんて一秒たりとも無く、全てが充実してるっていうか。少しは神子として人としても、成長したかと問われれば、それだって微々たるもの…でしかないのかもだけど。
きっと少しでも、良い方向へと。
進んでるんじゃないかって気はしていたんだ。
「ふむ…これだけやれれば、なんとか及第点といった所ですかね。」
「ほんと?良かった~!」
神子屋敷の敷地内に併設されている、修練場にて。ヴィンセントとの修行に励む日々。
勉強は主に彼が師となり、実践的な魔法訓練に関してはロロを始め、守護騎士達が交代で付き合ってくれたんだけども…。
いかんせん、そのような未知の力の扱い方なんて理解出来るわけがなく。ごくごく普通の人間だったオレは、なかなかの苦戦を強いられていた。
なんといっても、その魔法学の基礎部分が一番厄介なもので。
魔力の根源はなんぞや~とか、精霊の力を集めて属性がどうたらこうたら~…とか。その術 たるや、何もかもがチンプンカンプン。
謂わばオレは、何の知識も持たない赤子同然なわけだし…。
これに関しては教育係で博識なヴィンセントであっても。魔力の概念が存在しない世界から来たオレに、どう教えればよいものかと。
正直、手を焼いていたんじゃないかって思う。
それでも皮肉なことに、あの城下での事件をきっかけにして、徐々に目覚め始めたみたいだったから…。
要するに魔法は頭で考えるより感覚で使え…っていう、ジーナ流のやり方が。オレには一番向いてたってコトなんだよね。
事件により、追い込まれたおかげって言うと…ルーファスがまた責任感じちゃうから、ちょっと複雑ではあったけど。どうにかこうにか魔法を使うっていう感覚を、知ることが出来たわけだから。
少しは前向きに捉えても、良いんじゃないかなぁと思えた。
そんなこんなで、ようやく“神子”としての片鱗を垣間見せ始めたオレ。頭の中で教本通り手順を踏んでも、うんともすんとも出来なかったんだけど。
男達に襲われた時、ルーファスを心の中でイメージしたあの感覚を真似て、強く強く願えば。身体の中心辺りが、じんわりと熱くなってきて…。
更に集中すれば、これが意外と簡単なもので。
今では掌に魔力を留める…なんて芸当まで、可能になったのである。
普通に考えると、信じられないよね?
よくゲームの世界じゃ、呪文を唱えて魔法を発動させるのがお約束だけど。
この世界ではどちらかというと、イメージしたもの…例えば火とか水とか?そうしたモノを想い描き、具現化させるといったものが一般的みたいで。
素養さえあれば、どんな人でも何かしらの魔法が使えたりするんだとか。
といっても、最終的にはやっぱり勉強して。
自然界の理 云々…豊富な知識をちゃあんと身につけ、修行した方が。より効果や性能を、高められるらしいんだけどね。
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