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「うーん…でもイマイチ実感ないからなぁ。」 この力が治癒魔法だというなら、ホントに治せるのか試せたらいいんだけどなぁ。 そんなことを話してたらタイミング良く、修練場の扉が軽快に開け放たれた。 「セツ~、聞いてくれよ~!」 「なんですジーナ、セツは今魔法の修行中ですよ。」 ヴィンセントが注意しても、お構い無しに。 ジーナはまっすぐオレの元へと駆け寄ってくる。 「どしたの?なんかやけに傷だらけだけど…」 見ればジーナは土埃にまみれてて。 普段から生傷の絶えないヤツではあったけど。今はいつにも増してその身体に、痣や擦り傷を幾つも携えていた。 確か、今日もみんなと稽古してたハズだけど…何かあったのかな? 気になって問えば、ジーナはさも悔しそうに怪我を擦りながら。むうっと唇を尖らせてしまった。 「ルーにはずっと負けっぱなしだからさ。今日こそはタイマンで勝ってやる~って、思ったんだけどよ…」 なんでもルーファスは、フェレスティナでも屈指の実力を誇るらしく。とはいえジーナだって子どもながら、相当優秀な騎士なんだけども。 肉弾戦のみの勝負だと、例えジーナとロロ二人(がかり)で挑んだとしても。ルーファス相手だと、まともに勝ったことが事がないのだそう。 それでもタイマン勝負にこだわるとか、ジーナも相当な負けず嫌いだなぁって。オレはヨシヨシと慰めながら、思わず苦笑を漏らした。 「いや、マジで勝つつもりだったんだけどさ。やっぱムリだったなぁ~…ルーには全然歯が立たねーよ!」 悔しい~!と叫ぶジーナ。 年少組はまだ十代で、幼い印象だけど。 ジーナは肉弾戦のエキスパートとして、騎士団でも名を馳せてたそうだし。ロロの魔法の才能だって、かなりの実力者だ。 何より女王自らが、女神様の啓示を直々に受け選定したっていう守護騎士に選ばれてるんだから。 素人のオレには計り知れないけど、ジーナ達の実力は本物なんだろうなって思うんだ。 守護騎士じゃなくても特級騎士団に入ること自体、すごいことらしいからね! いつもは雑務をこなしてる秀才なイメージのヴィンセントだって、本業は騎士であり。何気にコイツも、守護騎士候補の1人と言われてたくらいの実力者らしいし。 あのナンパで飄々としてるアシュでさえ、槍の名手だって話なんだから。 普段は斜に構え、手の内とか簡単には見せないタイプではあるけれど。彼もきっと、ルーファスと同等の実力を…兼ね備えてるはずなんだよね。 中でも、ルーファスの才能は飛び抜けてるそうで。 守護騎士は『顔ありき』…なんて皮肉な噂も、あったりするらしいけど…。ルーの名声は、余所者のオレでさえスゴイって判るくらい、良く耳に入ってくんだよね。 人柄もあってか、民衆や騎士の間でも評判はすこぶる良いらしくてさ。 それでも城下の事件があってからは、オレ…神子を危険に晒してしまった責任を問われたりして。一部批判も上がったそうけど。 そういう事で騒ぎ出すヤツは、大抵ルーファスの才能に嫉妬するヤツだとかさ。端から神子や守護騎士の存在を善しとしないような、頭でっかちな人間だったりするわけで。 何を言われても、それは無い物ねだりのやっかみだから気にするなって。あの時は珍しくヴィンセントが、ルーファスを必死で庇ってたっけな…。 とはいえ…こないだのパーティーでは建前上、強制参加ではなかったにしても。結局ドタキャンしちゃった形に、なっちゃっただろ? しかも守護騎士であるルーファスまで、途中退席なんてしたもんだからさ。アイツや神子としてのオレの立場も、かなり悪くしてしまったし…。 オレの前でのアイツは、普段通り気丈に振る舞ってはいるけど。弱味は絶対見せないヤツだし。 ちょっと、心配だったり…するんだよね。

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