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「ではセツ、いつものように行えば大丈夫ですから。」 「う、うんっ…」 改めてジーナと向かい合い、集中する。 初めて人に対し魔法を実践するためか…練習の時より、遙かに緊張が高まった。 (集中しなきゃ……) ゆっくり目を閉じ、ジーナにかざした掌へ想い描く。 あの時…悪漢に襲われ、咄嗟にルーファスを呼んだような感覚で…強く、強く。 間に深呼吸を交え、ジーナの傷を癒したいと心の中で願えば… オレのそれは、魔法という名の力へと具現化していき。柔らかな光を放ち始めるのだった。 「すっげぇ───…」 毎日のように勉強だ訓練だと、自分なりに努力はしているけれど。オレはまだ、伝説に名を列ねる神子のような力は、微塵も持ち合わせちゃいない。 みんながそれを責めたりすることは、絶対ないけども。毎日稽古に励んでるルーファス達の姿を見ていると、オレも早く役に立てたらなって… 多少の焦りも、あったんだと思う。 かといって腕力とか、運動神経も無いから。 戦闘力でいうと、こっちの世界の子どもにすら勝てないってくらい非力だったし。 頭だって特別良いわけじゃない。 神子の特権ともいえる治癒魔法の才能に至っては、ほんと自信ないしさ…。 もしこのまま、神子の力が目覚めなかったとしたら。オレは、どうなってしまうんだろう? そういう不安や重圧は、この世界に馴染めば馴染むほどに。 平気な振りをしながらも。 ホントはスゴく、身に染みて感じてたんだ…。 (それでも、みんなのために…) たぶん何より『アイツ』のために。 平和の為とか、建前なら幾らでも繕えるけれど… そんなの柄じゃないし。 本当の、想いの先には。 いつだってルーファスがいるから…。 「セツ…」 入口から、ルーファスやロロ達の声が聞こえてきて。遠慮がちに名を呼ばれたけれど、オレは集中していたから敢えて動かない。 そうしたら足音だけが、静かにこっちへと近付いてきた。 更に手の中に意識を置いて。 集まった魔力の温もりを感じ…なんとなくだけど、癒しの効果が生まれてるのが解る。 そこは淡く、青白い光を湛えており。 なんだか心地良いそれは、術を発動しているオレ自身でさえも。不思議な感覚へと包み込んでいった。 「……ふう…」 暫くしてから、深く息を吐く。 大した事はしてないハズなのに。ずぶの素人が魔法を扱うのは、精神的にも簡単な事じゃあないみたいで。 オレは額に浮かぶ汗を拭うと、ジーナの顔をおずおずと覗き込んだ。 「どう、かな…?」 ジーナが自分の身体を改めて見返し。 ヴィンセントにルーファス、それからロロにアシュレイも加わり。全員が静かに成り行きを見守っていると…

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