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『″アレ″が噂の神子…本当に男なのか?一見すると、女子(おなご)に見えなくてもないが…』 『未だそれらしき″覚醒″の兆候も見られぬようだし…正直疑わしいものだな…』 ヒソヒソと、隠そうともしない敵意にツキリと胸が痛む。 『神子が男児だなどと、前代未聞であろう?神子の特徴が黒髪だからといって早々に決めつけるのは、如何なものか…』 『あのように軟弱そうな若造が、世界を救えるとは────』 「ッ……!」 「やめておきなさい、ルー。」 オレが泣きそうな顔で俯いていると。 見かねたルーファスが一歩踏み出ようとしたんだけれど…。 口を開く前に、ヴィンセントが静かな声でそれを制す。 納得がいかないルーは、反論するようヴィンを見やるものの…。彼はただ黙って首を横に振るだけで。 ルーは奥歯を噛み締めながらも、この場は素直に従った。 「何かね、騒々しい。」 そんな遣り取りを目の当たりにする、如何にもな風貌のオッサン…多分かなり上の役職っぽい男が。わざとらしく口を挟んでくる。 「いえ、お騒がせして申し訳ありません。」 しかし、そこはヴィンセント。 あくまで冷静に対応してみせると。その男はさも歯痒そうに鼻を鳴らしながら、ギロリと睨み付けてきた。 『全く…女王陛下の選定を賜りし、守護騎士と云えど所詮は軍人。やはり野蛮な連中ばかりなのだな。国を象徴する存在だというのに…“特級騎士団”とは、輩しかおらんのか?』 『特級騎士団は神子の守護を目的に創設され、入隊条件も厳しく狭き門だと言われているが…。所詮は一般人すら混在するような無法地帯、秩序も何もあったものでは無いのだろう。』 『それに神子は代々、清廉な乙女だけが召喚されていたとされるが…』 『神子まで男とあっては…崇高なる守護騎士の質も、暴漢に成り下がってしまうのだな…』 その男を皮切りに、陰口だったものが更に堂々としたものへと変わっていく。 なんでこんな冷遇を受けなきゃならないんだろ… 幾らなんでも酷くないか?オレだって、自ら望んで神子になったわけじゃないのにさ…。 知らない世界でいつも不安でいっぱいで。神子ってだけで、暴漢にまで襲われちゃうし…。 不自由はしてないにしろ制約だらけの毎日に、ウンザリするぐらい勉強だってしてるんだ。 それでも、ルー達や女王様達が優しく接してしてくれたから。神子としての使命を果たそうって、ようやく前向きになれてきたとこだったんだ。 なのに… 『神子の判別など『黒髪』という箇所しかないのであろう?ならばが神子である確証など、無いのでは?』 『しかし伝承によると守護騎士には、それを見極める能力(ちから)があると聞くが。彼奴らを見ていると…それとて真実かどうか、疑わしいものだな。』 その場に集まる全員ではないにしろ、半数近く…如何にも頭の固そうな狸親父らが。不満を隠そうともせず吐き捨てる。 この扱いには、さすがに腹が立ってきたけど。 ここでオレが下手に口を開こうもんなら、ヴィンの気遣いもルーの我慢も…みんなムダになってしまう。 そう思い、なんとか我慢しようとしたのだけど…

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