92 / 423
⑨
こんな時、何も出来ない自分が歯痒くて。
悔しさに目頭が熱くなる。
「あ───…狸共が、マジウッゼェなぁ…」
「ホント、頭悪過ぎて嫌になっちゃうよね。」
「ジーナ、ロロ…」
それはみんなも同じみたいで。場も顧みず、舌打ちするジーナに…珍しくロロまでもが怒りを露わにして。
「なんだその態度は…貴様ら全員、どうなっても知らぬぞ!」
いよいよ収拾がつかなくなり、重臣達の非難は激化する一方。
こんな時、頼りになるのはヴィンセントか、最年長のアシュレイなのだろうけど…
「政治家という生き物は、全く以て融通が利かないから困るよねぇ。」
「まあ、事実なので否定はしませんが…失言ですよ、アシュ殿。」
まさかこのふたりまでもが重臣達に向け、挑発的な事を言い出しちゃったもんだから…驚きだ。
アシュはまだ、分かるにしても。
さっきまで止める側だったヴィンまでが、あんな態度に出るなんて。いつでも冷静で、何事にも怯まず客観的に判断してさ…なのに。
一見すると無表情だけど。
アレはきっと、かなり怒ってるんだろうなぁ…。
でも、正直嬉しかった。
守護騎士で色々立場もあるのにさ…。
みんながオレのために怒ってくれたんだって、思ったら…ホント泣いちゃいそうだ。
「たかが騎士の…成り上がりで地位を得ただけの凡俗共が、生意気な口を…このままではタダでは済まされぬぞ!」
あの一番偉そうな男が、青筋を立て激怒する。
他の文官達もコイツの顔色見て、急に騒ぎ出してたし…。多分この場に集まった中では、相当位の高い役職なんだろう。
いくら、アイツらが先に酷いことを言ったからって。謁見の場で、こんな騒ぎ起こしちゃったらさ。
オレ達の立場とか、メチャクチャ危ういんじゃないかって。ちょっと心配になってきたんだけど…
「おやめなさい、グリモア。」
「陛下っ…!」
鶴の一声とは、まさにこのこと。
ぴしゃりと放たれたその声に、喧々囂々 としていた場の空気が冷たく一変して。
その場に居合わせた者は皆…すぐさま息を飲み込み、静まり返ってしまった。
ともだちにシェアしよう!