93 / 423

「アリシア様…」 凜とした佇まいで、ゆっくりとこちらへやって来る女王様は。オレの前まで歩み寄ると、跪いて頭を下げる。 「神子セツ殿。我が国の家臣の非礼を、どうかお許し下さい。」 「あっ、アリシア様…?」 予想外な展開に、オレを含めた全員が動揺を露わにし。 「陛下、何故そのような…」 さっきまで一番騒いでいた偉そうな男も、慌てて異議を申し立てる。けど… 「立場を弁えよ、グリモア卿。貴殿が犯した行為は国の失態。いえ…神への冒涜と言っても、過言ではありませぬぞ!」 そこは女王様と一緒にやって来た熟年の男達のひとりが、檄を飛ばし。先程の人物────グリモアと呼ばれた男も、さすがに口を噤む。 「元帥殿の言う通りですよ、グリモア卿。貴殿こそ、(おの)が立場をまず省みるべきです。」 「宰相殿、しかし…」 自分より身分が下で、更に毛嫌いする騎士でもあるルーファス達の態度が、余程気に入らなかったのか。先程の男達…元帥と宰相という重役らしき2人に窘められても。グリモアはなおも食い下がる、が… 「良いですかグリモア、神子殿はフェレスティナ…いえ、この世界を救うべく女神に召喚された救世主。謂わば神の代行者ですよ?」 そのために異世界から来た神子を、国を挙げて守護する。さすれば神子は、この国を光へと導き…何れは安寧を、もたらしてくれるのだと。 女王様はその場にいる者を見渡しながら、力強く語り掛ける。 「我が国において、神子は(わたくし)と同等に値する地位と特権を認めています。」 それは守護騎士とて例外はなく。 彼らは選ばれた瞬間から、階級や立場に縛られることなく、発言等する権利が与えられるのだという。 「貴殿の神子殿に対する発言は、適切ではなかった。違いますかな?」 慎みなさいと宰相に一喝され。 グリモアは悔しげに顔を歪めていた。 「皆、セツ殿が『男児』であることに、疑念を抱いているようですが…」 女王は宣言する。 「私、アリシア・グローム・ティエ・フェレスティナが女王の名において宣言致します。彼…セツ殿こそが、我が国を救済せし、真の″神子″であることを。」 姿形はまんまアリサちゃんなのに。 目の前のアリシア様は、紛れもなく一国の王なのだと…改めて痛感する。 年端もいかぬ女性でありながら、芯が強く威厳があって。何者にも屈しない、その圧倒的な存在感が。 このアリシア様には、確かにあったのだから。 「ッ……」 きっとグリモアの性格じゃあ、アリシア様とも馬が合わないんだろう。 ものすごく怖い形相をしていたけども。これ以上は、さすがに立場が危うくなると悟ったのか…。 オレ達を睨み付けると「失礼する」と捨て台詞を残し。せめてもの反抗心か、数人の文官も連れて… 謁見の間から、いそいそと退席してしまった。

ともだちにシェアしよう!