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⑫
「故に…今回、“特級騎士団”の各隊から人員を選出し。小規模にて編成した精鋭部隊と共に、″聖域″への視察を検討しております。…そこで神子であるセツ殿にも、ご同行をお願いしたいのですが…」
「オレが、ですか…?」
急な展開に、戸惑いを隠せず言葉を濁すと。
「目的地は、ここから最も近い場所にある聖域…神子の結界が施された石碑が存在する、“神淵 の森”にございます。セツ殿の身は、我が国の騎士…特級騎士団が最善を尽くし、お護り致します。が…」
それでも、100パーセントの保障はないと。
アリシア様は続ける。
「神子である以上いつ何時、命を狙われるやも知れません。只でさえセツ殿の存在は、民衆にさえ広く認知されつつありますから…」
それを踏まえて尚、同行してほしいのだと。
女王様は敢えてオレにリスクを語った上で嘆願する。
だけどそれは権力を振りかざし、強制させるわけじゃなく。あくまでオレと対等の立場で、話を進めてくれるから…。
だからこそ、安易な選択は出来ないなって。
オレは敢えて即答はせず、暫し瞑目しながら思案する。
…と、そこでルーファスが徐に口を挟む。
「陛下、よろしいでしょうか?」
「申してみなさい、ルーファス。」
すっと一歩前へと出たルーが、女王様に向き直り。真剣な眼差しで告げる。
「セツ…神子はまだ、完全には覚醒しておりません。少しずつ…いえ、着実に神子としての力に、目覚め始めてはおりますが…」
そんなオレを、危険だと判っていて。外に出すのは時期尚早ではないかと。
神子のお役目も勿論大事なのだけど…
ルーはあくまで、オレの身を一番に案じてくれていて。女王様相手にも関わらず、神妙な面持ちで進言していた。
それにはアリシア様も頷いてくれたけど。
「それも重々承知の上。しかし、事態は思うより深刻なのです。」
被害が出てからでは遅いのだと、女王様は憂う。
「結界が施された場所は、歴代の神子の力が今尚留まる神聖な領域。セツ殿が其方へ赴けば、何かしら力を得るきっかけに…なるやもしれません。」
それは過去の神子関連の文献に基づいた、推察でしかなかったが。少しでも可能性があるならば…と、アリシア様は強く訴えた。
その言葉には、何より説得力があったから。
「オレ…行きます。」
「セツ…」
戸惑うルーが、じっとこっちを見てきて。
オレは黙って、大丈夫だからと笑ってみせる。
「セツ殿…本当に、よろしいのですか?」
騎士団が守ると言っても、そこは魔物も蔓延る危険な場所。何が起こるかは判らない、命の保障だってそうだ。
それでも、自ら死地へと赴くのか…
当然、怖いに決まってる。
それは街で襲われた時に、嫌ってほど味わったし。みんなが心配するから…平気なフリはしてたけど。
本当は今でもたまに、夢で魘 されるくらいなんだ。……って、ルーには最初からバレてるけどね。
でも、あれだってまだ序の口。
街にいたゴロツキ…ごく普通の人間に、襲われただけに過ぎない。
外の世界には、それこそオレの想像を遥かに超えるような、恐ろしい魔物や魔族が沢山いるって言うんだから。
戦えないオレには、無謀な選択肢でしかないんだろうな。
それでも…
「オレには、みんながいるから。」
隣のルーを仰ぎ。ロロにジーナ、それからアシュとヴィンを順番に見やれば。みんなも応えるよう、強く頷いてくれる。
そんな頼もしい仲間の存在は…
不甲斐ないオレにも、勇気を与えてくれるんだ。
「だから、行きます。」
強く自分を保って、そう女王様に応えれば。
「セツ殿…慈悲深き神子の温情、心より感謝至します。」
感謝を述べたアリシア様の瞳は、キラキラとした涙で輝いて見えた。
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