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⑭
「いやあ、セツには敵わないなあと思ってね。」
何事かと首を傾げれば、今度はジーナが口を挟む。
「結果的には味方が増えるわけだし、悪くないんだけどさぁ。やたらと色気振り撒きやがって…タラシ込み過ぎだっての~。」
ジーナが云わんとする意味も、さっぱり解らず。
更にはヴィンまでが話に加わってきて。
「ひょっとするとコレも、神子の能力のひとつなのではないですか?自分を守ってくれそうな…それこそ屈強で忠誠心の高い騎士などに対し、無意識下で魅了の魔法のようなモノを掛けている…とか。そう考えれば、利に適っていると思いますけど。」
如何にも~な雰囲気で、ヴィンが持論を展開すれば。なるほど~と頷くジーナとアシュ。
なんだソレ…?
要はオレが神子の力でさ、騎士であるオリバーさん達を誘惑し…手懐けちゃってる────という意味らしいけど。
んなワケないじゃんね?オレ、男なのにさ。
そんなつもりだって、全然ないんだし…
「そうか、そういう事だったのか…」
「ちょ、やめてっルーまで…!ヴィンの冗談を本気にしちゃダメだってば~!」
オリバーさん達と別れてから、すっかり黙 り状態だったルーファスは。ヴィンの真面目ぶったジョークを真に受けたのか、難しい顔して考え込んでしまい…。ひとりブツブツと言い始めてしまう。
もう、コイツまで馬鹿なこと鵜呑みにしちゃって…。
「そっか~…そうやって力の無い神子は、自身を守ってこれたんだねぇ。ボクもね、セツといるとメチャクチャぎゅ~ってしたくなる時とかあるんだけどさ。それってセツに誘惑されてたからだったんだね~!」
「な…わわっ!ってロロ、くすぐったいってば~…」
ロロに至っては、無垢な顔して何やら爆弾発言をブン投げ抱き付いてくる始末。
みんなして、オレをからかいやがって…ジーナとか腹抱えて笑ってるし。
恥ずかしさに、膨れっ面して溜め息吐きながらも。こういう他愛もない遣り取りが、ちょっと嬉しかったりして…。
だってグリモアの事があったからさ。
あれってヘタしたら打ち首とか切腹とか…?
例えが古いかもだけど、位が高いヤツに逆らったりなんかしたら、速攻で処罰モンだったかもしんないだろ?
あの時は内心、かなりヒヤヒヤしたんだけど…
(よかった、みんないつも通りだ…)
心無い言葉を浴びせられて、みんなスッゴく怒ってた。
あんな反抗的な態度も、初めてみたし。
いつもはこんなに穏やかで、優しいのにな…
けど、今は普段通りに戻ってて。
みんなでふざけあって、楽しそうに笑ってる。
この世界の平和とか、勿論スッゴク大事だって頭では解ってるけど…。オレにとっては、みんなとこうして普通に過ごせることの方が。
何よりも代えがたい瞬間、なのかもしれないな…。
(そのためにも、頑張らなきゃ…)
それがルーファス達のためでもあり。
世界中にいる人々だって、きっと神子の救いを待っている。
プレッシャーは半端ないけど、女王様やオリバーさん達の期待にも応えたいって思うからさ…。
ふと見上げると、ルーと目がかち合い。
はにかんで笑えば、ルーは何か察したよう頷いて微笑み返してくれる。
そう…今のオレは何より誰より、コイツのために。
下心って言えば聞こえが悪いかもしれないけどさ。その想いがあるからこそ、こんな未知の世界でも自分を保っていられるんだから…。
思わずドキドキしちゃって…じゃれ合うジーナ達に視線を戻しながらも。
このじんわりする想いを確かめるように。
オレは愛しい人の横顔を、また密かに盗み見ては…じっくりと噛みしめ、反芻するのだった。
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