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「いやあ、セツには敵わないなあと思ってね。」 何事かと首を傾げれば、今度はジーナが口を挟む。 「結果的には味方が増えるわけだし、悪くないんだけどさぁ。やたらと色気振り撒きやがって…タラシ込み過ぎだっての~。」 ジーナが云わんとする意味も、さっぱり解らず。 更にはヴィンまでが話に加わってきて。 「ひょっとするとも、神子の能力のひとつなのではないですか?自分を守ってくれそうな…それこそ屈強で忠誠心の高い騎士などに対し、無意識下で魅了の魔法のようなモノを掛けている…とか。そう考えれば、利に適っていると思いますけど。」 如何にも~な雰囲気で、ヴィンが持論を展開すれば。なるほど~と頷くジーナとアシュ。 なんだソレ…? 要はオレが神子の力でさ、騎士であるオリバーさん達を誘惑し…手懐けちゃってる────という意味らしいけど。 んなワケないじゃんね?オレ、男なのにさ。 そんなつもりだって、全然ないんだし… 「そうか、そういう事だったのか…」 「ちょ、やめてっルーまで…!ヴィンの冗談を本気にしちゃダメだってば~!」 オリバーさん達と別れてから、すっかり(だんま)り状態だったルーファスは。ヴィンの真面目ぶったジョークを真に受けたのか、難しい顔して考え込んでしまい…。ひとりブツブツと言い始めてしまう。 もう、コイツまで馬鹿なこと鵜呑みにしちゃって…。 「そっか~…そうやって力の無い神子は、自身を守ってこれたんだねぇ。ボクもね、セツといるとメチャクチャぎゅ~ってしたくなる時とかあるんだけどさ。それってセツに誘惑されてたからだったんだね~!」 「な…わわっ!ってロロ、くすぐったいってば~…」 ロロに至っては、無垢な顔して何やら爆弾発言をブン投げ抱き付いてくる始末。 みんなして、オレをからかいやがって…ジーナとか腹抱えて笑ってるし。 恥ずかしさに、膨れっ面して溜め息吐きながらも。こういう他愛もない遣り取りが、ちょっと嬉しかったりして…。 だってグリモアの事があったからさ。 あれってヘタしたら打ち首とか切腹とか…? 例えが古いかもだけど、位が高いヤツに逆らったりなんかしたら、速攻で処罰モンだったかもしんないだろ? あの時は内心、かなりヒヤヒヤしたんだけど… (よかった、みんないつも通りだ…) 心無い言葉を浴びせられて、みんなスッゴく怒ってた。 あんな反抗的な態度も、初めてみたし。 いつもはこんなに穏やかで、優しいのにな… けど、今は普段通りに戻ってて。 みんなでふざけあって、楽しそうに笑ってる。 この世界の平和とか、勿論スッゴク大事だって頭では解ってるけど…。オレにとっては、みんなとこうして普通に過ごせることの方が。 何よりも代えがたい瞬間、なのかもしれないな…。 (そのためにも、頑張らなきゃ…) それがルーファス達のためでもあり。 世界中にいる人々だって、きっと神子の救いを待っている。 プレッシャーは半端ないけど、女王様やオリバーさん達の期待にも応えたいって思うからさ…。 ふと見上げると、ルーと目がかち合い。 はにかんで笑えば、ルーは何か察したよう頷いて微笑み返してくれる。 そう…今のオレは何より誰より、コイツのために。 下心って言えば聞こえが悪いかもしれないけどさ。その想いがあるからこそ、こんな未知の世界でも自分を保っていられるんだから…。 思わずドキドキしちゃって…じゃれ合うジーナ達に視線を戻しながらも。 このじんわりする想いを確かめるように。 オレは愛しい人の横顔を、また密かに盗み見ては…じっくりと噛みしめ、反芻するのだった。

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