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「セツ…?」 そんな心情が駄々漏れだったのか、ルーが顔を覗き込んできて。思わず見上げれば…深緑の瞳に惹き寄せられ、捕らわれる。 ルーに見つめられると、やっぱり甘えたくなっちゃうから…。ついときめいてしまう胸を、オレはギュッと鷲掴み、無理やりに抑え付けた。 「…女王様や騎士さん達が、こんな沢山…動いてくれてるから、さ。」 やはり無能のまま、何も出来なかったらどうしようって。頭を過る不安を、無意識に吐き捨ててしまう。 オレはずっと、ただ漫然と生きてきて。 決断力も男らしさもホント皆無で。人にこんな期待されたことなんて、今まで一度も無かったからさ…。 アリサちゃんにフラれた理由だって、そういうとこが原因だったじゃん? だから… 「セツ…」 今更怖じ気づくオレに、みんなの視線が集まってしまい。神子なんだから、しっかりしなきゃって思えば思うほど…プレッシャーに圧し潰されそうになる。 ああ…またこういうとこ、オレの悪い癖だ。 堪らず泣きそうになるのを隠すため、俯けば。 ルーファスがオレの頭へと、優しく触れてきた。 「私は…神子ではないから。セツが抱えている苦しみを全て理解する事は、叶わないだろう。それでも、」 お前が進む道ならば、何処までも何処へでも。 共に進み、護り続けたいと。 「例え神子としての兆しなど見えなくとも、決して無駄とは思わないし。私は何があろうと、お前の味方だから。」 神子の責任を、代わりに背負うことは出来ないけれど…とも。ルーは悔しげに、噛み締める。 それでもルーファスが、オレの好きな人の言葉が。何より嬉しかったから。 「ルー…」 オレは感極まって溢れそうになる涙を、必死で堪えた。 「ルーの言うとおりだよ!ボクだってセツのこと護ってみせるからね!」 「そーだゾ、ホントお前は隙だらけで危なっかしいからさ。こういう時こそ俺達に甘えて、黙って護られとけばいーんだから。」 ロロがぎゅーっと抱きついてきて。 ジーナも照れ臭そうにしながら、励ましてくれる。 「不安になったら、いつでも僕のところにおいで。優しく慰めてあげるから…ね?」 「そう自分を卑下せずとも、貴方は確実に成長していますから。少しくらい堂々としていても良いと思いますよ。」 アシュとヴィンも彼ららしい言葉で以て、背中を押してくれて。成り行きを見守っていたオリバーさんも、にこやかに賛同しながら、頷く。 「例えここで引き返したとしても、我々は決して貴方を責めたりはしません。」 不安を抱えたままでは、平常心を保てなくなるし。反って逆効果になる可能性も否めないからと、オリバーさんも真剣な眼差しを向けてくる。 「そうですわ、セツ殿。私共が無理を承知で、お願いしたのですから…」 申し訳ないと、アリシア様は苦笑して頭を下げる。 本来なら自らの手で、国を守りたいのだろうに。 それが叶わないからこそ、女王であるアリシア様が…誰よりも悔しい思いをしているんだろうなって思うんだ。 「オレは…」 自分が神子なのは、やっぱり自信は無いけど…それについては、この際受け入れよう。 だからといってプレッシャーがないわけじゃない。今だって、正直押し潰されそうで限界ギリギリだ。 でも、 「オレ、行きます。」 逃げてばかりじゃ、何も変わらないし。 オレだって命懸けで守りたいものがある…から。 決意を胸に、改めてオレはみんなを見渡して。 震えながらもはっきりと、そう応えてみせるのだった。

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