106 / 423
⑨
「逃がすかよ!」
「うわあっ…!?」
ジーナの動きに反応すら出来なかったソレは、あっさりと捕らえられて。
ズルズルと、茂みの中から引き摺り出される。
「え────…子ど、も?」
だよね…?
ずっと気を張ってたから、一瞬魔物かなんかだと思い…内心焦ったんだけど。
その正体は、どう見ても人間の子ども…で。
まだあどけなさのある、小さな少年だったんだ、が…
「んだコイツ、なんでこんなところに…」
「いったぁ…はっ、はなしてよ~!」
ジーナに首根っこを掴まれジタバタ騒ぎ始める少年に、皆の視線が集まって。
思わずルーと顔を見合せる。
改めて見直しても、ホントごく普通の子どもみたいだし。害もなさそうだったから、大丈夫かな~と胸を撫で下ろしてたんだけど。
「あ…」
少年をじっと見つめていたルーファスが、何かに気付いたよう声を漏らして。次にはスタスタと、少年の元まで歩み寄る。と…
「なんでこんなとこに、ガキがいるんだよ?」
ジーナが不思議そうに首をかしげると。
少年はジーナを睨みながらも、素直に答える。
「たまたま森で野草とか、食べ物を探しててたんだっ…」
そこで目の前にやってきたルーファスを、少年はじっと見上げる。
「そしたら、ルーファスさまが…」
「ティコ…」
ルーファスにティコと呼ばれた少年は。
聞けば城下からは少し離れた郊外にある、孤児院で暮らしている子どもだそうで。
守護騎士になる以前から、ルーファスが人知れず孤児院の子ども達と、交流を持っていたらしいんだけれど。
…んでもって、さっき少年が話してた通り。
山菜採りをしていたらところで、視察に向かう騎士団と出会し。気になって追っかけてたら、その中から見知った騎士…ルーファスの姿を見つけちゃったものだから。
こっそり様子を伺ってたんだと。
少年はバツが悪そうにしながら、打ち明けた。
「ルーファスさまが守護騎士になったから。孤児院にも来れなくなっちゃったって聞いて…。そしたらうわさの神子さままでいたから…」
好奇心に駆られた少年は…いけないと知りつつも、思わずついて来てしまったのだという。
こんな小さな子どもなのに…
魔物のいる森に入ってこれるなんて逞しい限りだ。
当初の目的は、山菜やキノコ狩りだったらしいけどね。いくらなんでも、ひとりで来て良いような場所じゃないはず。
城下から近いと言っても、それなりに距離はあるし。危険な場所なんだからね…。
ともだちにシェアしよう!