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「見つけましたよ…」 酷く(しわが)れた声が、嬉々として辺りに響き。 オレはビクンと身を竦める。 「魔族…」 ルーがポツリと溢せば、その場にいた全員が皆、確信めいた表情を浮かべ…空気が一気に凍りついた。 ソレって、まさかラスボスってことじゃ… 「ふふ…」 向こうから近付いて来たは。 そう比喩した通りの、(うごめ)くような闇を全身へと纏っており。煙の如くユラユラと宙を漂いながら、中心へと集まっていく。 は徐々に人形(ひとがた)を成し始め──── 一気に霧散したかと思えば、なんとも禍々しい本性(すがた)を露にしていった。 「あれが、魔族…」 未だ身体の奥に、異物が入ってくような感覚が続いていて。呼吸すら儘ならなくなるオレは、ズキズキとしてくる頭を押さえ冷や汗を流す。 が姿を現してから、なんとなく気付いたけど。きっとこれは、この森に残ってる先代神子の力がオレのものと共鳴していて…。魔族の気配に対して身体が拒絶反応みたいなのを、起こしてるんじゃないかと思う。 といっても確証なんて無いんだけれど… 「ティコ…!」 必死で逃げて来たティコが転げそうになり。寸でのところで、近くにいた騎士によって抱き上げられる。 ここからじゃ判らないけど…ティコの身体に目立った怪我はなさそうだった。 「お初にお目にかかります、神子?」 先入観から野蛮なイメージを想像していたは、思いの外丁寧な口調と所作で一礼をしてきて。 それでも、ニヤリとオレを捉えてくる眼差しからは…言葉通りの敬意など、微塵も感じられはしない。 「私はあなた方人間から、“魔族の王”と呼ばれている者に仕えております、名を…ムーバと申します。」 お見知り置きを…そう名乗った魔族は、内側から異様な気配を醸し出す。 けど、もしそれが本当なら… コイツは『魔王』じゃないってこと、なのだろうか…? 「此処は神聖なる領域、魔族が一体…何用です?」 「ふふ…神聖とは滑稽な。我々にとっては(かせ)でしかないと言うに。」 それは人間が述べる詭弁だと。 ムーバはアリシア様に向け、皮肉に笑う。 その姿形は、人間と比べても大して変わらないように見えたが…。黒味がかった褐色の肌に彫りの深い顔立ち、先の尖った耳など…何よりそこから滲み出てくる、禍々しさが。 彼を魔族、たらしめていた。 「我々の“王”が…この世に神子が召されたのだと、おっしゃいましてね…。」 加えて人間達による噂を耳にし、確かめに来たのだと…ムーバはあっさり答える。 「神子の封印が弱まり、ようやく我々本来の力が戻りつつあったというのに。新たな神子など、現れてもらっては…困るのですよ。」 ムーバは告げてまた、オレを冷ややかに見てくる。 オレが封印を修復してしまったら。瘴気が減り…魔族はまた力の大半を失うことになるのだから。邪魔しに来たのだろうけど…。 残念ながら今のオレにそんな力は、無いんだよな…。 「何人たりとも…セツへは指一本触れさせはしない!」 「ルー…」 獲物を品定めするよう、オレを捉えてくるムーバに。ルーが力強く言い放つ。 そうして庇うよう、オレの前へと立つ、大きな背中を見上げて。オレの心臓は一層熱く…高鳴った。 「女神に選ばれたされる守護騎士…でしたか?これはまた、厄介なモノですねぇ。」 身を竦めるような仕草をしながらも。 彼はこの軍勢に対し、独りきりという状況にも関わらず…怯む様子すら無くて。何を考えているのか、その表情からは一切読み取れそうにない。 魔族がかなり強いというのは、知ってるけど。 この人数で相手出来ないほどの戦力差までは、さすがに無いはずだ。普通に考えたら、あまりに無謀としか思えないんだけど…

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