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⑬
「見つけましたよ…」
酷く嗄 れた声が、嬉々として辺りに響き。
オレはビクンと身を竦める。
「魔族…」
ルーがポツリと溢せば、その場にいた全員が皆、確信めいた表情を浮かべ…空気が一気に凍りついた。
ソレって、まさかラスボスってことじゃ…
「ふふ…」
向こうから近付いて来た影は。
そう比喩した通りの、蠢 くような闇を全身へと纏っており。煙の如くユラユラと宙を漂いながら、中心へと集まっていく。
ソレは徐々に人形 を成し始め────
一気に霧散したかと思えば、なんとも禍々しい本性 を露にしていった。
「あれが、魔族…」
未だ身体の奥に、異物が入ってくような感覚が続いていて。呼吸すら儘ならなくなるオレは、ズキズキとしてくる頭を押さえ冷や汗を流す。
アレが姿を現してから、なんとなく気付いたけど。きっとこれは、この森に残ってる先代神子の力がオレのものと共鳴していて…。魔族の気配に対して身体が拒絶反応みたいなのを、起こしてるんじゃないかと思う。
といっても確証なんて無いんだけれど…
「ティコ…!」
必死で逃げて来たティコが転げそうになり。寸でのところで、近くにいた騎士によって抱き上げられる。
ここからじゃ判らないけど…ティコの身体に目立った怪我はなさそうだった。
「お初にお目にかかります、神子?」
先入観から野蛮なイメージを想像していたソレは、思いの外丁寧な口調と所作で一礼をしてきて。
それでも、ニヤリとオレを捉えてくる眼差しからは…言葉通りの敬意など、微塵も感じられはしない。
「私はあなた方人間から、“魔族の王”と呼ばれている者に仕えております、名を…ムーバと申します。」
お見知り置きを…そう名乗った魔族は、内側から異様な気配を醸し出す。
けど、もしそれが本当なら…
コイツは『魔王』じゃないってこと、なのだろうか…?
「此処は神聖なる領域、魔族が一体…何用です?」
「ふふ…神聖とは滑稽な。我々にとっては枷 でしかないと言うに。」
それは人間が述べる詭弁だと。
ムーバはアリシア様に向け、皮肉に笑う。
その姿形は、人間と比べても大して変わらないように見えたが…。黒味がかった褐色の肌に彫りの深い顔立ち、先の尖った耳など…何よりそこから滲み出てくる、禍々しさが。
彼を魔族、たらしめていた。
「我々の“王”が…この世に神子が召されたのだと、おっしゃいましてね…。」
加えて人間達による噂を耳にし、確かめに来たのだと…ムーバはあっさり答える。
「神子の封印が弱まり、ようやく我々本来の力が戻りつつあったというのに。新たな神子など、現れてもらっては…困るのですよ。」
ムーバは告げてまた、オレを冷ややかに見てくる。
オレが封印を修復してしまったら。瘴気が減り…魔族はまた力の大半を失うことになるのだから。邪魔しに来たのだろうけど…。
残念ながら今のオレにそんな力は、無いんだよな…。
「何人たりとも…セツへは指一本触れさせはしない!」
「ルー…」
獲物を品定めするよう、オレを捉えてくるムーバに。ルーが力強く言い放つ。
そうして庇うよう、オレの前へと立つ、大きな背中を見上げて。オレの心臓は一層熱く…高鳴った。
「女神に選ばれたされる守護騎士…でしたか?これはまた、厄介なモノですねぇ。」
身を竦めるような仕草をしながらも。
彼はこの軍勢に対し、独りきりという状況にも関わらず…怯む様子すら無くて。何を考えているのか、その表情からは一切読み取れそうにない。
魔族がかなり強いというのは、知ってるけど。
この人数で相手出来ないほどの戦力差までは、さすがに無いはずだ。普通に考えたら、あまりに無謀としか思えないんだけど…
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