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⑭
「とはいえ私も遊びに来たわけではありませんし。ここで神子を消すことが叶うなら、それはそれで好都合なんですがねぇ…」
それでもムーバは、臆した様子も無く自信ありげに告げる。けど…
「聖域外とは言え、ここは結界の恩恵が強い場所ですよ?魔族の王でもない貴方が単独でこの数を相手に…勝算があるとは、到底思えませんが?」
魔族も馬鹿ではないのだし。ムーバの狡猾 そうな雰囲気からしても、闇雲に突っ込んで来るようなタイプじゃないと思うけど…。
圧倒的に不利だと解っていて挑んで来るのか、と…アリシア様が再度問うも。彼は表情ひとつ変えることなく、女王様を嘲笑った。
「ならば、試してみれば良いではありませんか…」
言ってムーバは何やら呟き始める。
それはどうやら呪文のようなものみたいで…。
唱えると彼の手には、魔力が渦巻くようにして。瞬く間に集められていった。
「させるかよッ…!!」
それと同じくして既に動いていたのか、いつの間にかジーナが魔族との距離を一気に詰めており。地を蹴り高く飛んだ後、瞬時に拳を繰り出した────
…が、それは虚しくも空振ってしまい。着地した勢いのまま、すぐに拳を構え直したものの…ジーナは悔しげに舌打ちし、ムーバを睨んだ。
「皆さん何やら勘違いしていらっしゃるようですが…単身で挑むほど、私は愚かではありませんよ?」
ジーナが妨害したにも関わらず、彼の術は未だに効力を保ったままで。そうこうする内に術は完成し、発動してしまう。
瞬間、辺りに異様な気配が立ち込めてきて───…
「なん、だ…」
産み出された数多の闇は、一瞬で形を成し。
そこら中を埋め尽くすほどの『異形なモノ』を…顕現させていった。
「聖域の目前で、召喚術など…」
あり得ないことだと、騎士達は驚愕し動揺を見せる。
それを他所に、ムーバに呼び出された闇の眷属達は咆哮を上げ。此方に向け、敵意を剥き出す。
その姿はまさに化物。
大きさは様々…獣型に蜥蜴 のような類から、甲虫っぽい姿形のモノもいて…。ヌラヌラと黒光りする身体から、不気味な闇を燻らせるその禍々しさに。
オレは恐怖襲われ、足がすくみそうになった。
「怯むな!我らは神子を守護せし騎士の精鋭なるぞ!」
こんな時に頼れるのは、団長クラスの人間であり。奇襲から想定外の魔物召喚を受け、出鼻を挫かれようとも…冷静に皆を一喝し、奮い立たせるのはオリバーさん。
「今こそ我ら騎士団の天命を成す時だ!隙を見せるな、陣を整えよ!」
普段は飄々としているアシュレイも、元は特級騎士団第五防衛隊・副団長だった男。オリバーさん同様に物怖じすることなく、自らも指揮を取っていた。
「ロロ、セツの後方を頼みますよ!」
「まかせて!」
ヴィンとロロが目配せで合図し、各々の役割に沿って配置に着く。
「ルー!セツの子守り、頼んだぜ!」
ムーバと最も至近距離で対峙するジーナが叫べば、ルーも小さく頷き長剣を構えた。
オレは無力にも、ただひとり恐怖に怯えるしかなくて…
「大丈夫、私が必ず護る。」
ルーの背中が、そう告げるから。
「うんっ…」
オレは答えて、彼らに全てを託した。
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