112 / 423
⑮
「思った通り、神子の封印は相当弱まっているようですね。これならば────」
ムーバが命じると、大小様々な魔物の軍勢が一斉に攻撃を仕掛けてくる。応戦して騎士達も武器を手に、四方入り乱れた。
鬱蒼とした森の中、少し拓けた場所が瞬く間に戦場へと変貌を遂げ。魔物の咆哮と剣戟 の音 が響いたかと思えば…攻撃魔法による爆発音がそこかしこで飛弾し、耳をつんざいた。
未だ大した回復魔法も扱えないオレは、震えながらルーの背に隠れ…ただただ成り行きを見守るしかない。
「テメェの相手は俺がしてやるよ!」
交戦する中、ジーナが再度ムーバへと特攻する。
「おっと、接近戦は苦手なんですがねぇ。」
しかしムーバは避けるばかり。
さっきの術といい、見た目からしても魔法タイプの魔族…なんだろうか?
素早いジーナの追撃を、なんとか回避してはいたが…段々と追い詰められているように見えた。
「ハッ…大口叩く割には、全然手応えねーじゃんか!」
ジーナが勝ち誇ったよう繰り出した、渾身の一撃は。誰が見ても確実に、ムーバを仕留めたかに思えたのだけど────
「ッ…!!」
刹那…ふたりの間を断つように走った突風により、ジーナのそれは阻まれてしまい…風圧に煽られたジーナは勢いのまま、くるりと宙を舞って距離を取る。
「…ラルゴ、私に当たるところでしたよ?」
突風が走った森の奥に向け、ムーバが冷たく言い放つと。茂みから大きな影がひとつ、現れて…。
「ハッ…助けてやったんだ、文句言ってんじゃねぇよ。」
それは、魔族のムーバによく似た特徴を併せ持つ…加えて大きな体躯と赤髪が印象的な、男だった。
「相変わらず、貴方は都合の良い頭をしていますね。」
「…うるせえ。戦えねぇ奴は、無駄口叩かず下がってろ。」
言い放ち、片手で大振りの斧…みたいな武器を構える巨漢の魔族…ラルゴと呼ばれた男は。その体躯に違わぬ力をもて余すよう、軽々と武器を構える。
長身といっても、180以上あるルーなんかよりも遥かに大きくて…それこそ2メートルくらいは余裕でありそうな。まさに筋骨隆々といった姿形の、強面な大男だった。対峙するのが小柄なジーナだからか、その差が随分と際立つ。
なんだかラスボス感たっぷりの、メチャクチャ強そうなヤツが出てきたんだけど。
ジーナひとりで、大丈夫なんだろか…
「図体だけで頭は悪そうだな、お前。」
「ハッ…口だけは達者なガキだな。」
お互い挑発し合い、距離を図るふたり。
ラルゴはジーナを視界に入れつつ、チラと横目でオレを一瞥し。
「逃がすかよ…!」
その僅かな隙を狙い、オレの方へと侵攻を試みるムーバに反応し。ジーナがそれを阻止しようと、素早く駆け出した。が…
「お前は俺と、遊んでくれるんだろ?」
「チッ…」
すかさず放たれたラルゴの戦斧に、またもや邪魔されてしまい…。間もなくしてラルゴの凶器が唸りを上げ、再度ジーナへと襲い掛かった。
「ぬッ…!」
しかしその一撃は…鈍い金属音と共に、打ち消されてしまい。
「オリバー団長!」
ジーナとラルゴの間には、密かに距離を詰めていたオリバーさんが既に立っており。先程の巨大な戦斧を、自身の大剣でガチリと受け止めていた。
「く、そがッ…」
「力比べならば、私の挑むところだ!」
そう叫び、斧を弾き返すオリバーさんは。
同時に、ムーバを追えと…ジーナに向け無言で合図を送る。
…と、察したジーナはすぐさまそれに従い。次にはもう、動き出していた。
ともだちにシェアしよう!