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「思った通り、神子の封印は相当弱まっているようですね。これならば────」 ムーバが命じると、大小様々な魔物の軍勢が一斉に攻撃を仕掛けてくる。応戦して騎士達も武器を手に、四方入り乱れた。 鬱蒼とした森の中、少し拓けた場所が瞬く間に戦場へと変貌を遂げ。魔物の咆哮と剣戟(けんげき)()が響いたかと思えば…攻撃魔法による爆発音がそこかしこで飛弾し、耳をつんざいた。 未だ大した回復魔法も扱えないオレは、震えながらルーの背に隠れ…ただただ成り行きを見守るしかない。 「テメェの相手は俺がしてやるよ!」 交戦する中、ジーナが再度ムーバへと特攻する。 「おっと、接近戦は苦手なんですがねぇ。」 しかしムーバは避けるばかり。 さっきの術といい、見た目からしても魔法タイプの魔族…なんだろうか? 素早いジーナの追撃を、なんとか回避してはいたが…段々と追い詰められているように見えた。 「ハッ…大口叩く割には、全然手応えねーじゃんか!」 ジーナが勝ち誇ったよう繰り出した、渾身の一撃は。誰が見ても確実に、ムーバを仕留めたかに思えたのだけど──── 「ッ…!!」 刹那…ふたりの間を断つように走った突風により、ジーナのそれは阻まれてしまい…風圧に煽られたジーナは勢いのまま、くるりと宙を舞って距離を取る。 「…、私に当たるところでしたよ?」 突風が走った森の奥に向け、ムーバが冷たく言い放つと。茂みから大きな影がひとつ、現れて…。 「ハッ…助けてやったんだ、文句言ってんじゃねぇよ。」 それは、魔族のムーバによく似た特徴を併せ持つ…加えて大きな体躯と赤髪が印象的な、男だった。 「相変わらず、貴方は都合の良い頭をしていますね。」 「…うるせえ。戦えねぇ奴は、無駄口叩かず下がってろ。」 言い放ち、片手で大振りの斧…みたいな武器を構える巨漢の魔族…ラルゴと呼ばれた男は。その体躯に違わぬ力をもて余すよう、軽々と武器を構える。 長身といっても、180以上あるルーなんかよりも遥かに大きくて…それこそ2メートルくらいは余裕でありそうな。まさに筋骨隆々といった姿形の、強面な大男だった。対峙するのが小柄なジーナだからか、その差が随分と際立つ。 なんだかラスボス感たっぷりの、メチャクチャ強そうなヤツが出てきたんだけど。 ジーナひとりで、大丈夫なんだろか… 「図体だけで頭は悪そうだな、お前。」 「ハッ…口だけは達者なガキだな。」 お互い挑発し合い、距離を図るふたり。 ラルゴはジーナを視界に入れつつ、チラと横目でオレを一瞥し。 「逃がすかよ…!」 その僅かな隙を狙い、オレの方へと侵攻を試みるムーバに反応し。ジーナがそれを阻止しようと、素早く駆け出した。が… 「お前は俺と、遊んでくれるんだろ?」 「チッ…」 すかさず放たれたラルゴの戦斧に、またもや邪魔されてしまい…。間もなくしてラルゴの凶器が唸りを上げ、再度ジーナへと襲い掛かった。 「ぬッ…!」 しかしその一撃は…鈍い金属音と共に、打ち消されてしまい。 「オリバー団長!」 ジーナとラルゴの間には、密かに距離を詰めていたオリバーさんが既に立っており。先程の巨大な戦斧を、自身の大剣でガチリと受け止めていた。 「く、そがッ…」 「力比べならば、私の挑むところだ!」 そう叫び、斧を弾き返すオリバーさんは。 同時に、ムーバを追えと…ジーナに向け無言で合図を送る。 …と、察したジーナはすぐさまそれに従い。次にはもう、動き出していた。

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