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⑯
「お前、強そうだな。」
「そう思うならば、己で確かめてみるがいい。」
不適に笑い対峙するラルゴとオリバーさん。
スピードタイプで軽量級のジーナとは違い、オリバーさんはルーファスよりも更に長身でガタイも良く…重そうな大剣を易々と扱うような、まさにパワータイプって感じの騎士なのだけど…。
更に上をいく巨漢のラルゴに並ぶと、どうしても小さく見えてしまう。
それでも先程の攻撃を、難なく弾き返したのだから。力比べではきっと…負けてないはずだ。
現にラルゴはオリバーさんを見下ろしながら、その目に苛立ちのようなものを滲ませている。
「待ちやがれ…!」
「しつこいですねぇ。」
オリバーさんの援護を受け、ムーバの後を追うジーナ。
彼らに感化された騎士達も士気を上げ、応戦に加わわれば。従える魔物の数の利はあれど、ムーバの思惑どおりには至らず…現状では、かなり足止めを食らっていた。
冷静沈着そうに見えた魔族も、これには歯痒げに顔を歪ませている。
「そんな鈍足で、俺を撒けると思うなよ!」
さすがは格闘のスペシャリストにして、切り込み隊長。軽快な身のこなしで、あっさりと距離を縮めていく。
このままムーバまであと少しってところまで、来てたんだけど────
「子どもと遊んでる暇は無いのでね…」
「くッ…!」
ムーバが歩を緩めた瞬間、新たに召喚魔法を発動させて。瞬く間に形成された魔物は、すぐさまジーナへと襲い掛かる。
その奇襲は、ギリギリ回避するものの…その隙にムーバとの距離は振り出しに戻されてしまうから…。
ジーナは悔しげに舌を打ち、奥歯を噛み締めた。
「ジーナ、援護するよ!」
「ロロ!」
休む間も与えられず、3体の魔物をひとりでいなしながら、ムーバをどうにか追撃しようと奔走するジーナ。
そこにロロが、メイスを構え加勢に入る。
「アシュがセツの壁になるから!」
「りょーかい!」
年少組は息ピッタリに目配せし、魔物を迎え撃つ。
ジーナが特攻して敵を撹乱し隙を作り、ロロが後方から魔法で援護射撃する。
その見事な連携プレイは、それはもう鮮やかで。
まさに彼らならでは…といった戦法だった。
ふたりが魔物と戦っている隙に、ムーバは着実にオレとの距離を詰めて来る。
森の入り口は今や混戦状態で。
魔族2人に、召喚された闇の眷属を加えた戦況は、一触即発。予想外に始まった攻防は、どちらが優位とも判断付かない展開を迎えていた。
「魔族をセツ殿に近付けてはなりません!皆で死守するのです!」
自らも剣を握るアリシア様が檄を飛ばし、騎士達に命じるものの…
「ぐぁッ…!」
「怯むな、魔物は連携して各個撃破せよ!」
狭い空間で、巨大な魔物を何体も相手にしなくてはならず。いくら特級騎士団の精鋭といえど、人数も限られているため、苦戦を強いられる。
それでも彼らは勇敢に戦い、確実に魔物を撃破しているのだから。さすがはフェレスティナが誇る、最強の騎士団だなと思った。
「ルー…」
そんな中でもオレは相変わらず、ルーの背中に隠れてるしかなくて。震える足でこの場に立ってるのがやっと。
戦争なんて知識でしか知らないし。
人を殴ったことだって、幼少時代の他愛ない喧嘩以外は、手を出したこともなかった。
だから目の前の生々しい現実が、怖くて怖くて…
本当は今すぐ逃げてしまいたいくらいだったけど。それではダメだと自分に言い聞かせて。オレはなけなしの理性をなんとか保とうと、必死に踏ん張ってみせた。
「大丈夫だ、セツ。」
こうして立っていられるのは、きっとルーファスが傍にいるから。
いつの間にか、ルーの服を掴んでたオレに。
穏やかな声音が降りてきて、僅かに振り返るルーを見上げ、オレはなんとか頷いてみせる。
そうだ…みんなオレを守ろうって、必死に頑張ってんだから。神子のオレがしっかりしなきゃだよな…。
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