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⑰
「間もなくですよ、神子…」
そうしてる間にも、ムーバの侵攻は続き。
物腰柔らかな口調とは裏腹に。オレを捉える眼は、如実な殺意と狂気に満ち溢れている。
魔族にとって、神子の存在は邪魔でしかなく。
神子が施す結界は一方的にも、魔族の力を抑えつけてしまうのそうだから。彼らがオレに向ける感情も、解らなくはないけど…。
だからといってオレが何かしたわけじゃないし。
逆恨みはちょっと、勘弁してくんないかな…
「僕がいるのを…忘れないでね!」
「チッ…!」
槍を構え、ムーバに立ちはだかるのはアシュレイであり。素早く全身から魔力を構築し、目の前に障壁を展開していく。
守護騎士になる前は、特級騎士団の防衛部隊所属だったから。こういう支援や防御系の魔法が得意なんだそうで。
現にムーバは障壁に行く手を阻まれ、悔しげに舌打ちを吐く。
「たかが三下に、大事なセツは譲れないなぁ。」
まるでムーバが役不足だとでも云わんばかりに、言い放つアシュ。
屋敷で鍛練してた時は、積極的に戦う姿は見せなかったけど…。隠された実力は、ルーにも引けを取らないって話だったから。実際は相当な強さだと思う。
アシュの防御障壁を忌々しげに、見上げるムーバは。彼から間合いを取り、掌に魔法を増幅させる。
また何か呼び出すつもりかと、オレは固唾を飲んで見守っていたが…
「させないよ!」
そこは最年長のアシュ、抜かりなく先を読んでいて。ムーバの魔法が完成する前に、自ら特攻へと躍り出た。
「…ッ……」
その表現は的確で。
煌めく金糸の髪を靡 かせ、槍を手に地を蹴る姿は勇敢で美しく…まるで舞いでも踊っているみたいに。優雅でありながらも、動きに一切の無駄がなく、洗練されている。
一方、肉弾戦が不得意そうなムーバは、防戦一方を強いられており。彼の仮面が、判り易く剥がされていくものだから。
魔法も接近戦も等しく得意なアシュの方が、かなり優位な展開に見えた。
「戦う気がないのなら、そろそろ終わらせて貰うよ。」
「小癪なッ…!」
強がるムーバの表情には、さっきまでの余裕は感じられず。アシュの宣言通り、決着は火を見るより明らかだったが。
(あ────…!)
ふとオレの視界に入った先には、ティコの姿があって。上手く木々の影に隠れていたところを、運悪く魔物に見つかってしまい…
魔物に襲われる、瞬間だったから─────
「セツ…!!」
オレはルーが呼び止める前に、咄嗟に走り出していた。それを視界に捉えたアシュが、一瞬出遅れる。
『グルルル…』
「ひッ…!」
獣か爬虫類か、判別つかないほど禍々しい闇の生物は。怯えるティコを獲物とみなし、高らかに咆哮する。
その声は鼓膜が破れそうなほど低く、恐ろしくて。
幼いティコが、恐怖に抗えるはずもなく。茫然と魔物を見上げたまま…へたりとその場に崩れ落ちてしまった。
くっそ…間に合え…!!
「ティコッ…!!」
早く早く、無我夢中で走る。
運動神経なんて端から持ち合わせてないし。
こっち来てから散々思い知らされてたから、解ってたけど…
今だけは、と…縺れそうになる足を奮い立たせ、少年目指して走った──────けど、
「ぁ…」
「ティコ───!!」
手を伸ばしても、
オレなんかじゃ届くはずもなくて。
少年は無残にも、目の前で鈍い音を立て…
魔物に弾き飛ばされてしまう。
「ティコ…ティコッ…!!」
「…ぅ…ぁ……」
転がるようティコの元へと駆け寄り、小さな身体を抱き上げる。
名を呼べば、微かに声を漏らしたけど。
すぐにぐったりと、腕の中で…動かなく、なってしまった。
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