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⑱
「ティコ、ダメだッ…起きて…!!」
『グルアアア…!!』
その隙にも魔物は待ってくれず。
これ見よがしに唸り声を上げては。
今度はオレを標的に、その鋭い爪を振りかざす。
ティコを抱き締めたまま泣きじゃくるオレは、どうすることも出来なくて─────
「セツ…!!」
『ガァッ…!』
間一髪、ルーが剣から放った風の衝撃波により…窮地からは救われた。
「ルー…!!」
見ると、その魔力を帯びた風の一閃は、魔物の腕を一撃で両断しており。間を置いて己の惨状に気付く魔物は、途端に苦痛を訴え、絶叫し始める。
そんなルーの神業のような剣技に、魅せられたオレは…圧倒されてしまい、思わず息を呑み込んだ。
『グルルアァ…!』
「来い…」
普段の温厚な姿とは一変し、勇猛な騎士の顔を見せるルーファスは。素早くオレの前へと立ちはだかり、挑発するよう魔物と対峙する。
自分の身体の何倍もあるソレを相手にしても、ルーは常に冷静を保ったまま。更に別の魔物が加わり囲まれても、その心はブレる素振りすらなくて…。
一斉に襲い来る魔物達を…たったひとりで翻弄していくのだった。
「…ぁ……」
「ティコ…ティコ!!」
抱き締めるティコが、僅かに呻き声を上げて。
オレは無我夢中で呼び掛ける。
身体中血塗れで、きっと骨も折れてるだろうし。あの衝撃をまともに食らったんだ、このままじゃ命に関わるかもしれない…
「み、こ…さ、ま…」
「ティコッ…!」
朦朧とした意識でうっすら目を開いたティコは、オレに応えようとするけれど。痙攣する小さな身体には、全く力が入っておらず。段々と冷たくなっているような気がして…。
オレは温めるように、それでも痛くならないようにと。その身体を優しく優しく包み込んだ。
「みこ…こじ、い…にっ…」
「孤児院…うん、行くよ…必ず!だから、ティコもッ…」
懸命に紡がれる言葉を、必死に拾い集めて。
「ごめっ…なさ…ぼ、く…」
「なんで謝るのっ…大丈夫、大丈夫だから…!」
血塗れの少年はボロボロと涙を流し、如実に生気を失っていく。それを認めたくないオレは、嫌だ嫌だと否定して…ティコの身体を更にぎゅっと抱き寄せた。
途端に震えが止まる身体。
首は赤ちゃんみたく、ガクンと力が抜けてしまい────
「ダメだ、こんなのっ…」
あっちゃいけない、なんの罪も無い幼い子が。
さっきまでオレのこと、神子様って…無邪気に笑ってたんだ。
なのに…!
(イヤだ、ヤダよ……誰か……)
ここがゲームの、ファンタジーの世界なら。
回復魔法ですぐに治せるはずなんだ。
じゃなきゃティコは──────…
「セツ、ティコ…!」
オレ達の異変に気付くルーが、魔物と戦いながら叫ぶけど。オレの腕の中の命は、もう動くことはなく。
今まさに、尽きようとしているから。
やっぱり、こんなの間違ってる…
『グアアア…!!』
「怪我人は下がって援護に、動ける者が前に出て応戦しろ!!」
ティコだけじゃない。
ここにいる騎士さん達もみんな、傷付いてる。
みんなオレを…神子を守るために。
必死で、戦ってる…
(どうして、オレなんかがっ…)
神子になんて、選ばれてしまったんだろう。
元から戦える腕力もないし、そんな度胸だって微塵もありゃしない。現にオレは唯一この場で、無力で守られてばかりで。
ルー達の足手纏いでしか、ないじゃないかっ…
(それでも、オレは…)
助けたい、この小さな命を。
身を呈して戦うみんなを。
もしオレが、本当に神子だって言うのなら。
今出来なくて、何が救世主だと言うのだろう。
そんなの、意味無いじゃんか…
(お願いだ…)
今のオレが出来るのは、ほんのちょっと怪我を治すぐらいが関の山だ。
それでも、傷付いたこの子を少しでも癒せるのなら。ムダでも悪足掻きでも、なんだっていいから…
オレは懸命に、腕の中の命の小さなため…心から祈った。
どうか、神様──────
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