115 / 423

「ティコ、ダメだッ…起きて…!!」 『グルアアア…!!』 その隙にも魔物は待ってくれず。 これ見よがしに唸り声を上げては。 今度はオレを標的に、その鋭い爪を振りかざす。 ティコを抱き締めたまま泣きじゃくるオレは、どうすることも出来なくて───── 「セツ…!!」 『ガァッ…!』 間一髪、ルーが剣から放った風の衝撃波により…窮地からは救われた。 「ルー…!!」 見ると、その魔力を帯びた風の一閃は、魔物の腕を一撃で両断しており。間を置いて己の惨状に気付く魔物は、途端に苦痛を訴え、絶叫し始める。 そんなルーの神業のような剣技に、魅せられたオレは…圧倒されてしまい、思わず息を呑み込んだ。 『グルルアァ…!』 「来い…」 普段の温厚な姿とは一変し、勇猛な騎士の顔を見せるルーファスは。素早くオレの前へと立ちはだかり、挑発するよう魔物と対峙する。 自分の身体の何倍もあるソレを相手にしても、ルーは常に冷静を保ったまま。更に別の魔物が加わり囲まれても、その心はブレる素振りすらなくて…。 一斉に襲い来る魔物達を…たったひとりで翻弄していくのだった。 「…ぁ……」 「ティコ…ティコ!!」 抱き締めるティコが、僅かに呻き声を上げて。 オレは無我夢中で呼び掛ける。 身体中血塗れで、きっと骨も折れてるだろうし。あの衝撃をまともに食らったんだ、このままじゃ命に関わるかもしれない… 「み、こ…さ、ま…」 「ティコッ…!」 朦朧とした意識でうっすら目を開いたティコは、オレに応えようとするけれど。痙攣する小さな身体には、全く力が入っておらず。段々と冷たくなっているような気がして…。 オレは温めるように、それでも痛くならないようにと。その身体を優しく優しく包み込んだ。 「みこ…こじ、い…にっ…」 「孤児院…うん、行くよ…必ず!だから、ティコもッ…」 懸命に紡がれる言葉を、必死に拾い集めて。 「ごめっ…なさ…ぼ、く…」 「なんで謝るのっ…大丈夫、大丈夫だから…!」 血塗れの少年はボロボロと涙を流し、如実に生気を失っていく。それを認めたくないオレは、嫌だ嫌だと否定して…ティコの身体を更にぎゅっと抱き寄せた。 途端に震えが止まる身体。 首は赤ちゃんみたく、ガクンと力が抜けてしまい──── 「ダメだ、こんなのっ…」 あっちゃいけない、なんの罪も無い幼い子が。 さっきまでオレのこと、神子様って…無邪気に笑ってたんだ。 なのに…! (イヤだ、ヤダよ……誰か……) ここがゲームの、ファンタジーの世界なら。 回復魔法ですぐに治せるはずなんだ。 じゃなきゃティコは──────… 「セツ、ティコ…!」 オレ達の異変に気付くルーが、魔物と戦いながら叫ぶけど。オレの腕の中の命は、もう動くことはなく。 今まさに、尽きようとしているから。 やっぱり、こんなの間違ってる… 『グアアア…!!』 「怪我人は下がって援護に、動ける者が前に出て応戦しろ!!」 ティコだけじゃない。 ここにいる騎士さん達もみんな、傷付いてる。 みんなオレを…神子を守るために。 必死で、戦ってる… (どうして、オレなんかがっ…) 神子になんて、選ばれてしまったんだろう。 元から戦える腕力もないし、そんな度胸だって微塵もありゃしない。現にオレは唯一この場で、無力で守られてばかりで。 ルー達の足手纏いでしか、ないじゃないかっ… (それでも、オレは…) 助けたい、この小さな命を。 身を呈して戦うみんなを。 もしオレが、本当に神子だって言うのなら。 今出来なくて、何が救世主だと言うのだろう。 そんなの、意味無いじゃんか… (お願いだ…) 今のオレが出来るのは、ほんのちょっと怪我を治すぐらいが関の山だ。 それでも、傷付いたこの子を少しでも癒せるのなら。ムダでも悪足掻きでも、なんだっていいから… オレは懸命に、腕の中の命の小さなため…心から祈った。 どうか、神様──────

ともだちにシェアしよう!