116 / 423
⑲
「セツ……」
「な……!?」
無我夢中で願った瞬間…オレの内側から何かが弾け出し。光を纒ったそこから、勢い良く溢れ出す。
それは一気に膨らみ、輝きを増幅させ。
オレの身体から天に向け…高く高く立ち昇っていった。
目映い光の柱を目に。その場にいた全てのものが動きを止め、此方を振り返る。
「セツ殿…」
「どうなってんだ、アレ…」
鍔迫り合いの真っ只中だったオリバーさんとラルゴも、これには戦いを中断し。互いに距離を取り…此方へと意識を向ける。
ジーナ達も、ムーバと戦っていたアシュも。
皆がその光景に魅せられ…釘付けとなっていた。
(なん、だ…コレ…)
光の中心にいるオレですら、この状況に困惑しちゃってて。
けど、光の中はとても温かく。それが悪いものじゃないって…なんとなくだけど解るから。不思議と恐怖心は和らいでいた。
それに…
「…ん…ぅ…ッ…」
「ッ…ティコ…!!」
瀕死だったはずのティコが、ちゃんと目を覚ましたから。
それだけでオレの胸はいっぱいになり…堪らず少年の身体を、ぎゅっと抱き締めた。
「セツ…」
眩しげにオレを見やるルーが、静かに名を呼ぶ。
見上げて目が合ったから。
もう大丈夫だよって、涙ながらにも頷いたら…
ルーはふわりと笑って返してくれた。
「すごい…」
騎士も魔族の2人も、人のような理性や感情を持たないはずの魔物でさえも。
オレから放たれる光に一瞬、心奪われ。戦意喪失、戦っていたことなど忘れ、しばらくは茫然としていたのだけど…
『グアアア…!!』
突如、魔物達が苦しげにのたうち始め…それは連鎖するよう全ての魔物へと広がり。次々と、悲鳴染みた雄叫びを上げ出して。
「チッ…!」
本来は主人であるはずのムーバとラルゴにも見境なく、襲い掛かっていた。
2人の魔族からは、魔物ほどの変化は見られなかったが…
「術が────……これは、神子の力か…」
「おいムーバ、どうなってんだ…!」
何か思案しながら顔をしかめるムーバに、ラルゴも余裕なく叫んでいて。そうこうする内に魔物達は更に理性を失い、暴れ出すから。
「魔物が、消えてくぞ…!」
そうして誰かがが叫んだ通り、次々と魔物達が霧散して消え去り…。その光景を前に、思わず歓声が沸き上がると。
「奇跡、ですわ…」
アリシア様も額に汗を流しながら。安堵したよう、満面の笑みを溢していた。
「…ラルゴ、引きますよ。」
「チッ…指図してんじゃねぇよ…」
魔物はいなくなり、残された魔族は戦況を不利とみてか…呆気なく退却していき。
その後を、数名の騎士が素早く追走に出る。
「深追いはするな!危険と判断したら、すぐに帰還せよ!」
オリバーさんが、すかさず指示を飛ばし。
残った者は余韻に浸る間もなく、現状把握と負傷者の手当てに奔走し始めた。
(は…ぁ…)
安心したのか…力が抜けた途端、光の柱がゆっくりと消えていき。
(あ、れ…?)
同時に視界が、くらりと揺れる。
「セツっ…!!」
抱いていたティコを支える余裕すらなくなり、オレはそのまま背中から崩れ落ちてしまい…
倒れそうになるのを、大きな腕が受け止めてくれた。
「る、ぅ……」
「しっかりするんだ、セツ!!」
オレとティコを支えながら、ルーが叫んでるけど。
もう…耳には、何も届かなくて。
『セツ…!!!』
オレの元へと、みんなが駆け寄ってくる気配を最後に。その意識はぷっつりと…遮断されてしまったんだ。
ともだちにシェアしよう!