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「ルー、ティコは…」 ティコは魔物にやられて死にそうだったんだ。 あの状況じゃどうしようも────最悪の結末を想像してしたオレは、またグシャグシャと泣き出してしまい。 そんなオレに向けルーは、やんわりとした声音で…徐に語り掛けてきた。 「セツ。ティコなら大丈夫だから。」 安心しろと、ルーの言葉を頭に反芻させる。 それから順を追い…オレが神子の治癒魔法を発動させたことや、その後すぐに気を失ったことなんかを聞かされて。 思えばそんなことあったな…と、落ち着いて思考を巡らせていけば。少しずつ、当時の記憶が蘇った。 「セツのおかげで、ティコも一命を取り留めたんだ。」 奇襲だったにも関わらず、負傷者は出たものの…幸い死者はゼロ。ティコの護衛をしてくれてた騎士さんも、重傷だったらしいけど助かったんだそう。 さすがに一度は瀕死状態にまで陥っていたティコは、大事を取ってこの屋敷で預かることとなり…今は別室で療養中なんだって。 そうして丸3日間オレはずっと眠り続け…ようやく目覚めて、今に至るというわけだけど。 何気にその間、ルーファスが付きっきりで看病してくれたらしい。えへへ… 「そ、か…良かったぁ~──…」 今度は気が緩んで涙が止まらなくなり。オロオロするルーを前にしてオレは、子どもみたく泣き出してしまう。 二十歳(はたち)を越えた大の男が、情けないにも程があるけど。あんな怖い思いをしたのは初めてだったし。 あの時はティコが死んじゃうかもって、もう必死だったからさっ… 「セツ…」 「ゴメッ…でも、こわかっ…たん、だッ…あん、な…」 生ぬるい世界で、ぬくぬくと育ってきたオレにはあまりに衝撃的過ぎて。改めて現実の厳しさを、思い知らされる。 オレが今、どんな世界にいて。どんな立場に置かれているかを… 「セツ…」 どう答えて良いのか…迷うルーは黙ったまま、その胸にオレを強く(いだ)き、包み込む。 それはどんな言葉よりも優しくて。 気弱なオレの心を、穏やかに溶かしてくれた。 あったかくて、逞しくて。オレの大好きな人… 「う、うっ…」 「セツ…?…」 胸に擦り寄り泣いていれば、自然と落ち着いてきて。ルーがオレの顔を覗こうと、少しだけ離れようとするけれど… 「だめ、も…少し、だけ…」 離れないでって。じゃなきゃ不安になるからと。 我が儘に乗じ、その首へとしがみつく。 そのまま頬にすり寄れば…ルーはビクリとたじろいだけれど。それでもオレの肩をまた、抱き寄せてくれた。 ゴメン…ルーならオレを甘やかしてくれるって、こんなのズルイって解ってたけど。 今はなんだか無性に、触れて欲しかったんだ…。 「セツ…」 「ルー…」 今だけは大胆に。 恥じらいを捨て、愛しい人の身体に触れる。 最初はぎこちなかったルーファスも。 オレの不安げな心情を察してか、同じように身体をくっつけてきてくれて。 探り探りのその行為は、あっさりと背徳に身を委ねていき… オレの熱を、更に昂らせた。

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