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「っ…ぁ……」 頬が触れるだけのじゃれ合いだったものが…ルーの唇が緩やかに移動していき、オレの耳朶を掠める。その熱い吐息に思わずビクンと肩が揺れてしまい。堪らずルーへとしがみついた。 そのまま唇は、こめかみや涙に濡れる目尻、頬に触れるだけのキスを順に落としていって…。 ほんの少しの触れ合いなのに。 それだけでもオレの身体は、大袈裟なくらい跳ね上がった。 「ぁ…る、ぅ…」 「セ、ツっ…」 漏れそうな声を、秘めたる想いごと飲み込み耐えていると。不意打ちにも、ルーファスの瞳に捕まってしまい…。 色香を纏う翡翠に射抜かれ…瞬く間も無く、釘付けにされる。 (あ…やば、い…) キスして欲しい──────なんて。 邪な考えに支配され、物欲しげに薄く唇を開くと。 (…このままじゃ、) もう抑えが効かない、彼が欲しくて堪らない。 そんなことを思ってたら、ルーの顔もゆっくり近付いてきて──── 『神子さま─────!!』 「ッ…───!!!」 その距離僅か数センチのところで、扉が勢い良く開け放たれ。ドタバタと…部屋に飛び込んで来た人物により、現実へと引き戻され。 秒で熱を冷まされたオレは。慌ててルーファスの胸を押しやるのだった。 「あ、ティコっ…!」 「神子さま!」 嵐のようにやって来たのは、療養中と聞いていたティコで。オレを見るなり、満面の笑顔で駆け寄ったかと思えば…勢い良く抱き付いて来る。 「良かったぁ~、目が覚めたんだね!」 「ティコも、無事で良かった…」 グリグリと頭を擦り付けてくる少年を、ぎゅっと抱き締める。 死にかけたとは思えないぐらい、元気そうだったけど。その小さな身体には、まだ怪我が残っているのか…あちこちに包帯が巻かれていた。 「神子さまが治してくれたから、ぼく平気だったんだよ!」 怪我した腕で必死に抱き返してくるティコに、また涙が込み上げてくる。 あの時はホント死んじゃったんだと思ってたから。…神子なのに何も出来なくて、歯痒い思いもしたけど。この子を救うことが出来たのなら、何よりだ。 ホント良かった… 「神子さま…?」 恐怖の瞬間を思い出し。感極まってしまったオレは、涙を溢してしまい…。そんなオレにティコは戸惑い、思わずルーファスの顔を見上げる。 するとルーは困ったよう苦笑しながらも、ぽん…と少年の肩を優しく叩いて。 ティコはもう一度オレへと向き直ると、おずおずと濡れる頬に手を伸ばしてきた。

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