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「神子さま…」 「ごめんなっ、ティコが無事で嬉しくってさ…」 幼い少年を前に、それでも涙は止まんなくて。 無理矢理笑ってはみせるんだけど。こんなグシャグシャな顔じゃあ、説得力もありゃしないよね…。 「うん、もうぼく大丈夫だから。」 泣かないでと、年端もいかぬティコはオレをよしよしと慰めてくれる。 そんなことされると余計泣けちゃうから。 更に思い悩んだ末の少年は、なんとも大胆な行動に起こし──── 「……!」 「神子さまは、笑ってる方がステキだよ?」 ね?…って。 幼いティコは目尻に二度、ちゅっちゅと可愛らしいキスを落としてくる。 これにはオレもビックリしちゃって。思わず目を丸くするのだけど… 「やっぱりここに来ていたんだねぇ、ティコ。」 探したよ~と、間延びした声で部屋へと入って来たのは…アシュレイであり。寝てたはずのティコが脱走しちゃったもんだから、と…あちこち探してたみたいだ。 アシュが大袈裟な溜め息を吐きながら、スタスタと此方へやって来ると。次にはオレへと抱き付いてたティコを、容赦なく引っ剥がしてしまった。 勿論、ティコはヤダヤダと抵抗するのだけど…。 「ほらほら、セツはまだ目覚めたばかりだろう?」 休ませてあげなきゃね~と、アシュが優しく諭すと。ティコは名残惜しそうにオレを見やって。 「神子さま…元気になったら、孤児院に来てくれるよね?」 「うん、約束したからね。」 オレの独断では行けないから、許可は取らなきゃだろうけど。そこは絶対なんとかするからさ。 答えればティコは嬉しそうにはにかんで、 「約束だよ~!」 バイバ~イと元気に手を振り、部屋を後にした。苦笑いを浮かべながら少年に続くアシュは、扉を締める瞬間、オレ…いやルーを振り返り、 「ふふ…お邪魔したね?」 悪戯なウインクひとつ、ごゆっくり~と意味深な台詞を残し…去っていった。 『………………』 残されたオレ達は、無意識に顔を見合せる。 ティコの来訪で有耶無耶になってたけど…オレとルーは、さっきまで──── そのことを思い出せば。オレは真っ赤になり俯いてしまう。 ルーもさすがに恥ずかしいのか…同じく赤面しながら、口元を押さえ出して。ぎこちなく明後日の方を見上げては、オレから顔を背けていた。 「っ…ティコのやつ、可愛い顔して大胆だったなぁ~!」 振り払うよう…アハハと笑い飛ばし、オレは話題を投げ掛ける。 しかし… 「まさかチューされるとは思わなかっ…た、し…?」 自ら墓穴を掘り、地雷を踏んずける始末。 対するルーは怒ったような拗ねてるかのような、すごく微妙な表情を浮かべちゃうもんだから。 何ともいえない空気に、耐えきれなくなるオレは。更なる爆弾を投下してしまうのだが… 「や、ルーだって…さっきしてたじゃんかっ…」 テンパった挙げ句、ワケの解らないことを口走るオレは。気付いたところで後の祭り。 面食らったルーは、あからさまに狼狽え始める。 「あれは違っ…や、そうなのだがっ…」 最初にすり寄ったのはオレだけどさ…まさかルーから、デコチューとか色々されるとは…思わなかったし! 最後のは、未遂に終わったけど… もしあのまま、ティコが来なかったら。 どう、なってたんだろ…。

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