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「はぁ、はぁッ…」 広い屋敷の中を爆走し、適当な空き部屋に滑り込む。 全力で走ったから、足はもうガックガク。 そのままぺたりと床に崩れた。 (はぁ~…ヤバかったぁ…) 閉めた扉のすぐ横の壁に凭れ掛かり、天井を仰いで深呼吸して。 咄嗟のこととは云えど、なんかメチャクチャ失言しまくってたなぁと。余りの余裕の無さに、さっそく自己嫌悪に苛まれる。 オレ、こんなキャラじゃなかったんだけどなあ~…。 ここまで感情的になるなんて、殆どなかったし。 今までの恋愛遍歴を辿ってみてもさ。こんな風に振り回されるくらい、気持ちが昂ることだってなかったんだ。 けれどルーファスに出会ってからは、もうずっとドキドキしっ放し。叶うわけないのにって、諦めようと思いながら…どんどん抑えが効かなくなってしまってる。 好きだと自覚した途端、欲張りになっちゃって…。 油断したらこの気持ちを。うっかりと晒け出してしまいそうだから…危険だ。 ルーのヤツも、まさかオレに惚れられちゃっただなんて、知る由もないだろうからさ。 アイツは自覚ナシにガンガン誘惑してくるし。オレもいちいち真に受けて、期待しちゃうから…。 この想いがイヤってわけじゃないけど。 実りの無い片想いが、こんなにもしんどいだなんて… ホント全然知らなかったよ。 『セツ────…!』 (わわっ…ルーだ…!) その時、廊下からルーの叫ぶ声がして。 オレは思わず小さい悲鳴を上げるも、慌てて口を押さえる。 心臓をバクバクさせながら、ぎゅっと目を閉じ。息を潜め、なんとか見つからないようやり過ごすと…。ルーの足音は次第に部屋の前から通り過ぎて行った。 ひとまず安心かと、胸を撫で下ろす────が。 「セツ……」 「んぎゃ────ッ!!」 オレ如きが熟練の騎士様を(あざむ)けるワケがなく… 通り過ぎたと見せかけ、忍び足でUターンしてきやがったルーファスに。呆気なく見つかってしまう。 本能的にオレは部屋の奥へと這いつくばり、逃れようとするのだけれど… 「逃げないでくれ、セツ…」 「…ッ……」 座ったまま、とすんと壁際へと追いやられたかと思えば。 逃げ道を失くし、壁へと手を付かされるオレのそれに。不意打ちにも、ルーの手が重ねられ…背中越し、体温が伝わるほどの距離から…ルーの気配を感じる。 何コレ、向き合ってないだけマシだけどさっ… なんかスッゴク恥ずかしいんですけど…。 「昨日は、すまなかった…」 悲痛な声音が耳元からして。吐息が当たるほどの距離感に、体温がどくりと音を立て跳ね上がる。 「こんなこと、初めてなんだ…セツが相手だと、どうも自制が効かなくて。」 「え…?」 …それってどういう意味だろう? 意味深なルーの台詞に、オレの心臓は勝手に期待して舞い上がる。 いや、きっと深い意味なんてないんだって…自分に言い聞かせようとするけど。恋する乙女モードに突入してしまったオレでは、どうしても都合よく捉えたくなるから。 それじゃダメ、なんだけどさ… 「私の軽率な行動が原因なのは解ってはるんだ…それでも、」 “お前に避けられるのは耐えられない” そう言ってルーはオレの後ろ頭に、コツンと額で触れてくる。 「る、う…」 触れた箇所が熱くって。 今にも倒れそうになるのを、必死で堪える。 もう…言ってることと、やってることが滅茶苦茶なんだけど。安易に翻弄されるオレは壁際で赤面しながら。震える手で、どうにか踏ん張ることしか叶わない。 「セツ…?」 「わ、わかったからッ…」 コレ以上惑わさないで────… 耳元へと直接伝わってくる振動に、ビクビクしながら。なんとか身体を捩って、ルーの胸を押し返す…が。 骨抜きにされてくオレに、そんな力が出るわけがなく。抗おうにもルーの服を掴むのが精一杯。 「許してくれるのか…?」 「ゆ、許すからっ…」 別に怒ってたワケじゃないんだけど…。 オレが避けてたから、勘違いさせちゃったんだろうな。 振り回したことについては、申し訳ない気もするけど。これ以上蒸し返すと色々ボロが出そうなので…。ここは否定せず、素直に頷いておこうと思う。 「良かった…」 「ちょ、こらこらっ…」 よっぽど嬉しかったのか。ぎゅきゅっと抱き付いてくるルーの胸を叩いても、一切の効果はなく。 はぁ…どれだけオレを翻弄すんだよと、ひとり内でごちる。 (ホント困っちゃうよなあ…) この天然タラシなオレの守護騎士様はさ…。 そうぼやきながら、ルーの背中をぎゅっと掴む。 ルーは気付いてなかったけど… (好き、だよ…) 言葉には紡げそうにない、そんな想いを秘めて。 日の目の無かろう、この感情を。 ルーの胸の中でこっそりと育んでは…飲み下していた。

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