129 / 423

「もうすぐだよ~!」 わーいとアシュの馬から手を振るティコが、前方を指さして。 釣られて見やると、(ふもと)に木々と柵に囲まれた建物が目に入った。その丘のてっぺんには、(やぐら)らしきものも見受けられる。 「こんなところにあるんだね~。」 孤児院と聞いて、学校とかイメージしてたけど。 城下からそこそこ離れた場所にある所為か、敷地の半分くらいは、森の中に突っ込んじゃってるような立地で。 実際このまま森の中を進んで行けば、神淵の森にも繋がってるそうだから。意外と過酷な環境なんじゃないかと、少し心配になってくる。 「この先の広いところに、駐屯地があってね。」 駐在する、騎士様や自警団が守ってくれるから安全なんだよと。ティコが得意げに教えてくれた。 城の中でぬくぬくと暮らしてたから、分かんなかったけど。一歩外に出ると、こんなにも違うのかと痛感させられる。 安全といっても…ティコ達孤児院の子ども達は、ひとりで森に採取や狩りをしに行くというし… こっちの世界の住人は、ホント逞しいんだなと思った。 「着いたらセツを、みんなに紹介するね!」 「うん、楽しみにしてるよ。」 ずっと屋敷で世話したり、遊んだりしてたからか…ティコは今じゃルーよりもオレの方に懐いてくれていて。 外で神子様って呼ばれちゃうと、嫌でも目立つし。まだまだ慣れないってのもあったから。オレのことは名前で呼ぶようにしてもらった。 その分距離も縮まって。ティコは何かとオレにベッタリくっついてくるようになったもんだから…。 ルーファスのヤツ、ずっと何か言いたそうな顔をしてたっけなぁ。 もしかしなくても、ヤキモチ妬いてたりすんのかな…とか?なーんて…でも最初はティコだって、ルーにすっごく懐いてたし。実際はの意味合いの方が、強いのかもしれない。 その反動で、なのか…ルーまでもが、やたらとオレにくっついてくんのには、正直困ったけど…。 「ここだよ!」 馬からぴょんと降りた途端、ティコはオレの手を引き、早く早くと急かしてくる。 孤児院は畑や小さな牧場、そして森に囲まれており。簡素な木柵で囲った広場の先には、古い建物が見えた。 イメージで言うと、木で建てられた昔の学校…ってとこだろか。 「ティコだ!みんな、ティコが帰って来たよ~!」 おーいとティコが叫べば、広場や建物の中からぞろぞろと子ども達が現れて。久しぶりの再会に、歓声を上げながら。すごい勢いで、こっちへと集まって来る。 「ティコ、ケガしたって聞いたけど、大丈夫だったか?」 「うん!あのね、ルーファスさまと神子さまも一緒に来てくれたんだよ!」 心配そうに聞いてくる孤児院の仲間達に、ティコが得意気に告げると。子どもらは途端に目をキラキラと輝かせ、オレ達を見上げてくる。 「こんにちは~!」 「ホントに髪が黒いんだ……本物の神子さまだ!」 挨拶すると、子ども達は感動したよう騒がしくなって。 「神子さまって、男の人なの?」 小さな女の子が不思議そうに訊ねてくる。 「神子が男なわけないだろ~!」 「そうだよ。ちょっと男っぽいけど、きっと女の人だよ。」 「こら、お前達…」 ヤンチャそうな少年らが、口々に(はや)し立てる。そうするとルーはオレが気にすると思ってか、やんわり(たしな)めようとするのだけど…。 「セツは男だけど、ホントの神子さまだよ!ぼくが魔物にやられて死にそうになったのを、魔法で治してくれたんだから!」 ティコがブンブンと手を振りながら、力説すると。 「そうなの?」 少年達もティコが怪我した経緯を、事前に知ってたんだろう。じっとオレを見つめてくるので。 「うん、セツって言うんだ。よろしくね。」 笑って答えれば、みんなはまた爛々と表情を輝かせた。うん、やっぱり子どもは素直だなあ。

ともだちにシェアしよう!