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⑧
「オレも…手伝っていい?」
「セツさま?……うん、いーよ!」
思いきって赤ちゃんの世話を申し出れば。子守りをしていた少女は、にっこり笑ってくれて。
オレは早速、赤ちゃん達をそっと覗き込むと。
すやすやと眠ってたり、あわあわと不思議な声を発したりしていて…
ホントちっちゃい子って、無垢で可愛いよなぁ~。
「お、抱っこして欲しいのかな?よ~しよし~、イイコだね~。」
オレを見つけると早速赤ちゃんが手足を伸ばし、必死にバタバタさせるから。オレは優しく話し掛けながら、ゆっくりと抱っこしてあげた。
久し振りに抱いた赤ちゃんは、あったかくてぷにぷにしてて。やっぱり甘くていい匂いがする。
「セツは、赤子をあやすのが上手いのだな。」
抵抗なく赤ちゃんと触れ合うオレが意外だったのか、ルーは柔く目を細めて。
「んーなんでか昔から、子どもには好かれるからさ。親戚の姉ちゃんの子とか、良く面倒みてたんだよね。」
急な仕事なんかで預かる時は、シッター代としてお小遣いも貰ってたけど。普通にミルクあげたり、オムツ変えたりくらいはやってたなぁ。
『節は子守りの才能あるね!』だなんて、良いように扱われてたんだろうけど…それでも普通に楽しかったし。
「そうか…」
答えると、ルーはオレの抱く赤ちゃんの頬を優しく指で撫でてやる。
ルーも自ら孤児院に通うくらいだから、子ども好きなんだろうなあ。ルーファスなら、良いお父さんになりそうだし…。
そんな考えが過り、何故だかつきりと…胸が痛む。
(オレじゃ、望みもないよな…)
男だから。
どんなにルーを好きでいても、万にひとつ想いが通じ合えたとしても。オレはコイツの子を…産むことは出来ない。
そんな現実が、オレを弱気にさせる。
「あらら~どうした~、オムツかな~?」
グズリ出した赤ちゃんに、オレは我に返ってオムツを確認する。
「変えられるのか?」
「ん~これなら…たぶん大丈夫。」
ベビーベッドに赤ちゃんをそっと寝かせ、お世話係の少女に布のオムツを渡される。
「肌の弱い子は、布も使ってたから…これならいけそうかな。」
手早くお尻を拭いて、布オムツを取り付けると。赤ちゃんは次第にご機嫌になってくれて。
「神子さまはスゴイね!」
そんなオレを見て、子ども達も歓声を上げる。
あまりに誉めるもんだから、照れ隠しに頭を掻いていると…
「セツは、母親みたいだな…。」
「へっ?」
ルーが突然感心したよう呟いて。
ポカンとしてたら、途端に少女達が目を輝かせる。と…
「ホントだ~セツさま、お母さんみたい!」
「だったらお父さんは~…ルーファスさまかなぁ?」
『え…!?』
お似合いだねって…絶対意味、解ってないでしょ…。
無邪気な笑顔で、残酷なことを口走る子ども達に。オレはバカみたく真っ赤になってしまい。
思わずルーを見上げると…
「セツと、夫婦…」
ルーも同じぐらい赤い顔し、口元を押さえて。なにやらブツブツと…言い始めていた。
え…ルーとオレが、夫婦…?
「やや、オレ男だしっ…お母さんだなんて…」
なれないよって、自分で言いながら内心へこんでたりして。子どもの言うことなんだから、笑って流せばいいのに。単純だから、あからさま動揺してしまう。
更に…
「え~でも、セツさまって女の人みたいにキレイだし。ねぇ?」
「うん、お母さんにしか見えないよね~。」
相手が何歳だろうと、所詮オレは女子に勝てないのか…少女らの発想力に抗う術なく、言葉を失う。
この子達に他意はないから仕方ないけど。
今はちょっと、キツイかも…
「いいじゃないか、その…セツなら似合うだろうし。」
お母さんがって。
ルーファスも大概だし…
「じゃあ、今からセツさまのコトは“セツお母さん”って呼ぶね!」
「ええっ…!?」
最終的には、孤児院のみんなからお母さんと呼ばれ…
「なんだなんだ~、楽しそうだな!」
そうなれば経緯を知ったジーナ達にも。
後から漏れなくして、からかわれることに…なるのであった。
や…お母さん呼びは、まあ諦めるとして。
ルーファスと夫婦みたいだとか言われちゃうとさ…もう、どうしていいか分かんなくなるんだよ。
ホントこの恋は、報われないよなぁ…。
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