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「ルー…?」 一向に動かないルーに、やきもきして名を呼べば。何故かオレをジーッと凝視してくる始末。 どうしたんだろ?あの女性のからしても、なんだか親しい間柄に思えるし…。 何か、あるのかな… 「早くしないと置いてくぞ~!」 一向に進まないオレ達を急かし、ジーナが大声で叫ぶ。それでもルーは…意味ありげな顔をしたまま、 「セツ、すまないが皆と先に戻っていてくれないか?」 「え……」 まさかそんなこと言われるとは思ってもみなくて。オレはついマヌケな声を出してしまい、言葉を失う。 その間にも、あの女性はずっとルーを呼んでるから…。 心中祈る思いでルーを見上げるものの、なんだか申し訳なさそうな表情を浮かべられて。 「遠縁なんだ、少し話して来るから…」 「なら、待ってても…」 「いや…」 親戚なら、紹介してくれたっておかしくないのに。待つと返せば、申し訳ないからと遠慮がちに断られてしまい…つい泣きそうになる。 面食らうオレは、それ以上ルーを引き留めることは出来なくて…。足早に女性の元へと行ってしまう背中を、ただただ見送るしかなかった。 「セツ、どうしたの?」 茫然と動けずにいたら、ロロが駆け寄って来てくれるのだけど。それには答え切れず…遠くなるルーを、未練がましくぼんやりと見つめるオレ。 するとジーナとアシュも何事かと顔を見合せ、こっちへと引き返してきた。 「…おや、ルーはまた捕まってしまったのかい?」 遠目にルーが女性と話し始めたのに気付き、アシュが苦笑いする。 「や…遠縁って、言ってたけど…」 って高を括ってたら。 「え…?それなら婚約者とかなんじゃねーの?」 ジーナの台詞に、オレはピシリと凍り付く。 「もうっ、ジーナのおバカ…!」 「いってぇ!!」 ショックで絶句してたら。何故か怒り出したロロが、ジーナをグーで小突いてたけど…。 オレの頭ん中は真っ白で、ツッコむ余裕すら儘ならない。 (婚約者…いたんだ、) 前にも気になってことだけど。 ルーは良いとこの、お坊ちゃまなんだから… やっぱり、そうだよね…。 「違うよ、セツ!そういう話、ルーから全然聞いたことないからっ…」 あからさま消沈するオレを見て、ロロが一生懸命気遣ってくれるけど。 「どうだろうねぇ…。ルーが、セツを置いてまで会いに行くぐらいだし…」 確かに…アシュの言う通りだ。 何度となく、女性に声を掛けられてたけど。 その度ルーは必ず断っていたし。いつでもオレを、優先してくれてたから。 それが当たり前だと思ってたなんて… とんだ自惚れじゃんか、オレ… ここからじゃ女性の顔も判らないし。 当然ルーがどんな顔をして、なんの話をしてるのかは、判らないけど…。 今までのルーは、女性に対し礼儀正しくはあれど。何処か社交辞令な感じがして。どっちかって言うと、苦手そうな印象だったんだ。 でも今のルーは、なんとなくだけど…砕けた感じっていうか。ごく自然に接してるように、見えるから。 親戚同士なんだし、当たり前なんだろうけど。 ダメだ…すごく、モヤモヤする。 「セツ、大丈夫かい…?」 俯くオレを見て、アシュも切なげに目を細めて。見ればロロやジーナも、オレの顔を心配そうに覗き込んでいる。 「な…なんでもないよ!ほら、お茶会するんだろ?ルーには先に帰ってろって言われたし…早く帰ろう!」 「でも…」 空元気を振りかざして、尚も後ろ髪引かれるロロの背を押して先を急かす。 ここから出来るだけ早く。 これ以上見てるなんて、出来ないから… 背中に刺さる光景を決して振り返ることなく。 オレは必死で笑顔を繕いながら…内側で醜い感情を、沸々と募らせていった。

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