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④
「ルー…?」
一向に動かないルーに、やきもきして名を呼べば。何故かオレをジーッと凝視してくる始末。
どうしたんだろ?あの女性の呼び方からしても、なんだか親しい間柄に思えるし…。
何か、あるのかな…
「早くしないと置いてくぞ~!」
一向に進まないオレ達を急かし、ジーナが大声で叫ぶ。それでもルーは…意味ありげな顔をしたまま、
「セツ、すまないが皆と先に戻っていてくれないか?」
「え……」
まさかそんなこと言われるとは思ってもみなくて。オレはついマヌケな声を出してしまい、言葉を失う。
その間にも、あの女性はずっとルーを呼んでるから…。
心中祈る思いでルーを見上げるものの、なんだか申し訳なさそうな表情を浮かべられて。
「遠縁なんだ、少し話して来るから…」
「なら、待ってても…」
「いや…」
親戚なら、紹介してくれたっておかしくないのに。待つと返せば、申し訳ないからと遠慮がちに断られてしまい…つい泣きそうになる。
面食らうオレは、それ以上ルーを引き留めることは出来なくて…。足早に女性の元へと行ってしまう背中を、ただただ見送るしかなかった。
「セツ、どうしたの?」
茫然と動けずにいたら、ロロが駆け寄って来てくれるのだけど。それには答え切れず…遠くなるルーを、未練がましくぼんやりと見つめるオレ。
するとジーナとアシュも何事かと顔を見合せ、こっちへと引き返してきた。
「…おや、ルーはまた捕まってしまったのかい?」
遠目にルーが女性と話し始めたのに気付き、アシュが苦笑いする。
「や…遠縁って、言ってたけど…」
親戚ならって高を括ってたら。
「え…?それなら婚約者とかなんじゃねーの?」
ジーナの台詞に、オレはピシリと凍り付く。
「もうっ、ジーナのおバカ…!」
「いってぇ!!」
ショックで絶句してたら。何故か怒り出したロロが、ジーナをグーで小突いてたけど…。
オレの頭ん中は真っ白で、ツッコむ余裕すら儘ならない。
(婚約者…いたんだ、)
前にも気になってことだけど。
ルーは良いとこの、お坊ちゃまなんだから…
やっぱり、そうだよね…。
「違うよ、セツ!そういう話、ルーから全然聞いたことないからっ…」
あからさま消沈するオレを見て、ロロが一生懸命気遣ってくれるけど。
「どうだろうねぇ…。あのルーが、セツを置いてまで会いに行くぐらいだし…」
確かに…アシュの言う通りだ。
何度となく、女性に声を掛けられてたけど。
その度ルーは必ず断っていたし。いつでもオレを、優先してくれてたから。
それが当たり前だと思ってたなんて…
とんだ自惚れじゃんか、オレ…
ここからじゃ女性の顔も判らないし。
当然ルーがどんな顔をして、なんの話をしてるのかは、判らないけど…。
今までのルーは、女性に対し礼儀正しくはあれど。何処か社交辞令な感じがして。どっちかって言うと、苦手そうな印象だったんだ。
でも今のルーは、なんとなくだけど…砕けた感じっていうか。ごく自然に接してるように、見えるから。
親戚同士なんだし、当たり前なんだろうけど。
ダメだ…すごく、モヤモヤする。
「セツ、大丈夫かい…?」
俯くオレを見て、アシュも切なげに目を細めて。見ればロロやジーナも、オレの顔を心配そうに覗き込んでいる。
「な…なんでもないよ!ほら、お茶会するんだろ?ルーには先に帰ってろって言われたし…早く帰ろう!」
「でも…」
空元気を振りかざして、尚も後ろ髪引かれるロロの背を押して先を急かす。
ここから出来るだけ早く。
これ以上見てるなんて、出来ないから…
背中に刺さる光景を決して振り返ることなく。
オレは必死で笑顔を繕いながら…内側で醜い感情を、沸々と募らせていった。
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