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「もう、寝よ…」 ひとりでウダウダ考えたって時間のムダ。 嫌なことは早く寝て忘れようと、全然眠くない頭をぼすんとベッドへと埋めたんだけれど───── 「あ、れ…?」 ふとベッドの下に、何か落ちているのをみつけて。オレは身を乗り出しソレを拾う。 と、そこに落ちていた物は… 「コレって…」 手に取った物は、ビロード貼りの小さな箱で…。 如何にもな形状に、オレはドキリとする。 オレのじゃないから。きっと今し方ルーが、落として行っちゃったんだろうけど…。そしたら今日の事が嫌でも頭を過り、内心穏やかではいられなくなるから。 「指輪、だ…」 つい開けてしまい、すぐさま後悔に苛まれる。しかもその指輪には、見覚えがあり───… (城下に行った時の、だ…) オレがちょっとお高そうな店のショーウィンドウを、たまたま見ていて。 造りはシンプルなんだけど。幻想的な羽を型どったシルバーのリングが、すっごく綺麗だなって。何とはなしに話してたヤツじゃんか、コレ… けど、なんでルーがこんな物を…? (────ああ、そういうことか…) “それって婚約者なんじゃ────” 思わずジーナの台詞が脳裏に突き刺さり。女性と親しげに話すルーの姿と、ピタリ合致する。 こうなってくるともう…疑う余地なんて、無いんじゃないだろうか。 (なんで、よりによって…) オレが綺麗だって言った指輪なんかを、選ぶんだよ? ぼんやりしてきた視界で見つめると。 魔力加工が施されてるっていうその指輪は、小さな石を反射させ、キラキラと七色に輝いており。 その美しさの、なんと残酷なことか… アイツも結構気に入ってたし、それであの女性(ひと)に… (もう、やめよう…) こんな形で真実を知ってしまい、胸が痛む…けど。 元々オレには許された感情じゃないんだし、叶う見込みだって無かったんだから。 今気付けて、寧ろ良かったんだ…。 (落とすなよ、バカ…) 大事な婚約者への指輪だろ? オレの気も知らないで、こんなドジ踏みやがってさ。いつもはしっかりしてるクセに… 「…ッ……」 指輪を捉える視界がうるりと歪み。 もう限界だ、頭ん中ぐちゃぐちゃだし…こればっかりは耐えられそうにないよ。 そしたら涙目もいっぱいになり、いよいよ零れそうになっていると… 遠慮がちに扉がノックされ、思わず肩が震える。 慌てて涙を拭い、どうにか返信をすれば…。 今しがた出ていってたはずのルーが、気まずそうにまた部屋へと入ってきて。 その様子は、何処か落ち着かないように思えた。

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