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「セツ……」 「婚約者へのプレゼントだろっ…こんな大事なもん、落とすなよッ…」 ちゃんと返さなきゃ…でもそうしたら、コレはあの女性に渡されてしまうんだって思ったら。 自分からは、どうしても動けなくて… 箱を握り締めたまま、無気力に項垂れるしかない。 ルーからすれば、いきなりオレが怒り出して泣き喚いて。さぞ滑稽に映っただろうけど…。 今のオレには、そんなことを気にする余裕なんて。これっぽっちも無かったんだ。 「セツ…」 一方的にぶちまけ、バカみたく泣き出すオレに。ルーは悲痛な表情を浮かべながら、目の前まで近付く。 こんなんじゃもう嫌われちゃうよなって。 手を伸ばされたオレは、思わず肩を震わせたけど──── 「…ぇ……」 最悪殴られてもおかしくないなって、身構えてたのに。 ルーは何故かオレを、その身に引き寄せ…ぎゅっと、いつもよりキツく抱き締められる。 「なん、でッ…」 やめてよ、知らないだろお前。 オレがどれだけお前を好きで、触れられる度に勘違いしてたのか… さすがにこれは耐えられず、ルーの胸を本気で押し返すのに。力じゃ到底敵うわけがなく、更に強く包み込まれてしまうものだから… オレなんかに為す術など、あるわけがない。 「なぜ?…ならセツはどうして、泣いているんだ?」 逆に問い返され、答えられないオレは。 いつになく優しくないルーの接触に、戸惑うばかりで…嗚咽しか出せないでいる。 そんなオレを、やはり離してくれないルーファスは。黙って慰めるよう、けど強く強く… 腕の中へと、オレを閉じ込めるんだ。 「…セツ、指輪を貸してくれないか?」 「えっ…」 しばらく抱き締められてたら…ルーがそう申し出て。真っ直ぐに、じっとオレを見つめてくる。 正直渡したくなかったから、一瞬躊躇ってしまったけれど。 「大丈夫だから…な?」 ルーがあまりに穏やかな声で言うから。 オレは観念し、震える手で箱を渡すしかなくなり。 受け取ったルーは、何を思ったのか…箱の中から指輪を取り出した。 「る、う…?」 「セツ、手を。」 そうしてオレの手を取り、はにかむルーファスに。 不安に駆られながらも…仕方なく成り行きに任せ、見守ってたら。 ルーはその手に指輪を近付けていき…迷うこと無く、 「え……えっ…?」 指輪はオレの薬指へと、嵌め込まれてしまった。 「良かった…ぴったりだったな。」 茫然とするオレを余所に、ルーは満足気に微笑んで。状況が呑み込めないオレは…ぽかんと口を半開いては、間の抜けた顔で彼を仰ぎ見る。 「今日は、すまなかった。その…色々と事情があってだな…」 照れ臭そうに頭を下げるルーファスに、目を丸くするオレ。 「ちゃんと、渡したかったのだが…」 バレては仕方ないなと、ころころ表情を変えるルーは。 次には悪戯に苦笑ったかと思うえば… 事の顛末を、ぽつりぽつりと語り始めた。

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