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⑧
「セツ……」
「婚約者へのプレゼントだろっ…こんな大事なもん、落とすなよッ…」
ちゃんと返さなきゃ…でもそうしたら、コレはあの女性に渡されてしまうんだって思ったら。
自分からは、どうしても動けなくて…
箱を握り締めたまま、無気力に項垂れるしかない。
ルーからすれば、いきなりオレが怒り出して泣き喚いて。さぞ滑稽に映っただろうけど…。
今のオレには、そんなことを気にする余裕なんて。これっぽっちも無かったんだ。
「セツ…」
一方的にぶちまけ、バカみたく泣き出すオレに。ルーは悲痛な表情を浮かべながら、目の前まで近付く。
こんなんじゃもう嫌われちゃうよなって。
手を伸ばされたオレは、思わず肩を震わせたけど────
「…ぇ……」
最悪殴られてもおかしくないなって、身構えてたのに。
ルーは何故かオレを、その身に引き寄せ…ぎゅっと、いつもよりキツく抱き締められる。
「なん、でッ…」
やめてよ、知らないだろお前。
オレがどれだけお前を好きで、触れられる度に勘違いしてたのか…
さすがにこれは耐えられず、ルーの胸を本気で押し返すのに。力じゃ到底敵うわけがなく、更に強く包み込まれてしまうものだから…
オレなんかに為す術など、あるわけがない。
「なぜ?…ならセツはどうして、泣いているんだ?」
逆に問い返され、答えられないオレは。
いつになく優しくないルーの接触に、戸惑うばかりで…嗚咽しか出せないでいる。
そんなオレを、やはり離してくれないルーファスは。黙って慰めるよう、けど強く強く…
腕の中へと、オレを閉じ込めるんだ。
「…セツ、指輪を貸してくれないか?」
「えっ…」
しばらく抱き締められてたら…ルーがそう申し出て。真っ直ぐに、じっとオレを見つめてくる。
正直渡したくなかったから、一瞬躊躇ってしまったけれど。
「大丈夫だから…な?」
ルーがあまりに穏やかな声で言うから。
オレは観念し、震える手で箱を渡すしかなくなり。
受け取ったルーは、何を思ったのか…箱の中から指輪を取り出した。
「る、う…?」
「セツ、手を。」
そうしてオレの手を取り、はにかむルーファスに。
不安に駆られながらも…仕方なく成り行きに任せ、見守ってたら。
ルーはその手に指輪を近付けていき…迷うこと無く、
「え……えっ…?」
指輪はオレの薬指へと、嵌め込まれてしまった。
「良かった…ぴったりだったな。」
茫然とするオレを余所に、ルーは満足気に微笑んで。状況が呑み込めないオレは…ぽかんと口を半開いては、間の抜けた顔で彼を仰ぎ見る。
「今日は、すまなかった。その…色々と事情があってだな…」
照れ臭そうに頭を下げるルーファスに、目を丸くするオレ。
「ちゃんと、渡したかったのだが…」
バレては仕方ないなと、ころころ表情を変えるルーは。
次には悪戯に苦笑ったかと思うえば…
事の顛末を、ぽつりぽつりと語り始めた。
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