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⑨
「以前、城下に行っただろう?」
勿論、鮮明に覚えてる。
オレにとっては初デートみたいなもんだったし。ルーを好きだと初めて自覚したのも、あの時だったんだから…。
あんな事になって、苦い思い出にもなっちゃったけど…。それでもルーとふたりきりで、町を散策出来たことは…何よりも楽しかったんだよ?
「セツがとても気に入ってた指輪が、どうも諦めきれなくてな…」
本当なら、あの日に贈りたかったのだが…。
結果的にそれどころではなくなり、騒動に流され曖昧になってしまってたらしいけど。
「舞踏会当日、実家に立ち寄ったところ…エリス…今日宮殿で会っただろう?彼女が城下にある仕立て屋に品物を取りに行くからと、付き合わされたんだ。」
エリスさんはルーの遠縁の、幼なじみのような間柄だそうで。舞踏会に参加するために、ルーの実家へと滞在していたらしく…。
で…無理矢理に同行させられた際に、あの装飾屋さんの前を偶然通り掛かって。
指輪のことを、思い出したのだという。
残念ながらあの指輪は、既に売れてしまっていて。新しく作るにも時間が掛かるというから。
ルーには守護騎士の務めがあったし、なかなか都合も付かなかったため…諦めようかと相当悩んだらしいけど。
事情を知ったエリスさんが気を遣ってくれて。指輪が完成した後、自分が代わりに受け取りに行くからと…申し出てくれたんだそうだ。
「本当は随分前に、仕上がってはいたのだが…」
勢いで買ったものの…いきなり指輪を贈るというのも、なんだか不躾な気がしてしまったルーファスは。エリスさんから再三呼ばれていたにも関わらず、受け取りを渋ってたんだそう。
それに痺れを切らしたエリスさんが、わざわざ渡しに来てくれたんだと…。ルーはなんともバツが悪そうにしながら、苦笑った。
「じゃあ、なんであの時…」
先に帰れだなんて言ったの?って。
オレが腑に落ちないとばかりに、唇を尖らせると。
「エリスはちょっと、変わり者でな…。あの場でセツに会わせると、色々面倒なことになりそうだったから…」
すまなかったと、ルーファスは項垂れる。
真実を知ったオレは、途端に身体の力が抜けて。そのままベッドにへたり込んでしまった。
改めて指に嵌められた物を、じっくりと眺める。
どうしよう…オレの表情筋、かなり緩んでんじゃないかな?顔とかメチャクチャ熱くてヤバいんだけど…。
「それに、エリスは…」
(私と同じくらい、神子に憧れていたからな…)
「え?」
ルーが何か言ったような気がしたけど。
なんでもないと、はぐらかされてしまい。
オレは首を傾げながらも、すぐに指輪へと視線を戻す。
「へへ…」
まさかオレへのプレゼントだったとは、思ってもみなかったけども。ルーがくれたものだから…すっごく嬉しい。
男が指輪を貰ってニヤニヤしてるだとか、相当気持ち悪いけどね。
だって指輪だよ?
そんなのプレゼントするとか…普通なら誕生日とかでも、そうそうしないよね?
って、ん…?
そこでオレは、あることに気が付く。
(ルーのヤツ、しれっと薬指に嵌めてるけどさ…)
右手、ではあったけども。
オレのいた世界では、右でも特別な意味が…あるわけで。
「あの、さ…」
「ん?」
未だにくっついたまんまの、ルーを見上げると。至近距離で顔を覗き込まれ、バカみたいに心臓が騒ぎ始める。
「えと…指輪はこの指で、いいのかな…?」
深い意味はないんだよね?と、遠回しに問えば。
ルーはハテナ?と疑問符を浮かべて。
「うん?その指では、寸法が合わなかったか?」
そんな、的外れな答えが返ってきたので。
「や、なんでもないです…」
きっとこの世界では、指輪の位置に深い意味なんてないんだと。オレはそう無理矢理に結論づけ、言葉を濁した。
余計なこと言って、これ以上墓穴を掘りたくはないからね…。
「機嫌は…治ったか、セツ?」
ついついにやけ面で指輪を見てたら、ルーが悪戯に微笑んできて。勘違いによる、これまでの痴態を思い出し…顔が熱くなる。
「まあ、うん…。」
なんかすんごいこと言っちゃった気もするけど…。とりあえず生返事すると、ルーは嬉しそうに目を細めて。
「ならば…安心した。」
指輪の嵌められている方の手を取ると…
オレの瞳を捕らえたまま、そこに柔く口付けを落とした。
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