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(ふへへ…) 嗚呼、いかんいかん… 勉強を再開したいと、自らヴィンに申し出たというのに。集中力が続かず…気が付けば、ついつい指輪にかまけてしまう。 こんなだから、すぐ弄られるっていうのに。 油断するとどうしても顔が緩んじゃうんだよなぁ…。 我ながら、相当な拗らせ具合である。 (オレってかなりチョロいよな~…ルーに誘惑されると、毎回その気になっちゃうし…) ルーが優しいのはきっと、オレに限ったものじゃなく。誰にだって適用されるもので…。 キスとかハグとか…当初のアシュの例もあるから、一概には言えないけれど。基本的にアイツが誰かを拒絶したりする姿は、見たことがない。 強いて言うなら、グリモアくらいか? 逆にに関しては、大多数が相容れない人種だろうから…論外だし。 そもそもオレは男だから、女の子ほど気を遣わなくていいと思うのに。ルーは神子にずっと憧れを抱いて育ったからか…その考えが身に染み過ぎて、簡単には切り離せないのかもしれない。 故にオレに対しても例外なく、紳士的で過保護っていうか…女の子みたいに扱ってくるんだろうし。 だからって絆されてちゃダメ、なんだけど。 違うと解ってても、好きなもんは好きなんだから。しょーがないでしょうよ…。 それでも神子のオレには、やらなきゃいけないことが沢山あるんだから。 今はしっかりしないと──── 「自らやる気になったと思ったら…随分と余裕ですねぇ、セツ?」 「うッ…」 今やろうと思ったんです!…と、宿題サボって母親に叱られた時みたいな言い訳を心の中で溢しつつ、肩を竦めるオレ。 久し振りの、鬼教官様の降臨に。オレはぐうの音も出やしない。 「このところ、貴方の心は…あまり穏やかではありませんね。」 溜め息交じりに、机を挟んで向かい側へと腰を下ろすヴィンは。眼鏡越しに、じっとオレを見つめてくる。 美形が真顔になると、ムダに迫力あるから怖い。 ヴィンともなれば…尚更である。 「…まあ、貴方にも色々ありましたから。解らなくもないのですが…」 だからいつもは厳しいヴィンも、今は勉強しろとは言ってこなかったし。なんだかんだ察して、気を遣ってくれたんだろう。 「我々は、貴方に縋るしかないのが…もどかしいですね。」 ヴィンはルーに似て真面目だし。誰かを頼るくらいなら、自分でなんとかしたい性分だろうから。 フェレスティナの人間として…何も出来ないことが、誰より悔しいのかもしれない。 「ですが、時間は待ってくれませんし。貴方への脅威もそこまで迫ってますから…」 「魔族とか、グリモアのことか…?」 オレの問いに、ヴィンは黙って頷く。 宮殿の敷地内なら、ある程度命の保証はされている。魔族が容易く侵入出来ないよう、先代神子の結界がここにも張られているからだ。 加えて神子の屋敷では、守護騎士は当然ながら給仕するメイドさんや執事さん…それからコックさんまでもが全員、戦闘訓練を受けたという強者揃い。 加えて特級騎士団も、交代で警護についてくれてたからね。 それでも一歩外に出れば、危険は嫌でもついてくるもので。よくよく考えたら、何も敵が魔族だけとは…限らないんだよな…。 「今のところ目立つ動きはありませんが…用心するに越したことはないでしょう。」 守護騎士とて完全ではないのだから。 最低限、己の身は守るように…と。ヴィンはふわりと目を細め忠告する。 コイツは性格的に判りづらくはあるけれど。 ホントはスゴく優しいヤツなんだって、オレはちゃんと知ってるんだ。 「…というわけで、追加の資料をお持ちしましたので。出来る限り目を通しておいて下さいね。」 「えっ…ええ~…!?」 …人一倍、厳しいのも然り。

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