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⑤
「ふぃ~…疲れたあぁ…」
「仕方ありませんね。貴方もまだ万全ではありませんし、休憩にしましょうか。」
なら手加減してくれよと言えればいいのだが…口は災いのもと、黙って机に突っ伏する。
相変わらず馴染みのない魔法やらの難しい専門書は、難解過ぎてなかなか捗らず。それでも折れそうな心と頭をもたげ、午後も机に向かっていた。
…で毎度の如く、限界を迎えたというね。
「お疲れ~セツ~。」
こっちだよ~とロロの声に誘われ、オレは逃げるようテラスから庭園へと出ると。
そこにはいつものように、アフタヌーンティーが用意されていて。オレは背伸びをしながら早々と着席した。
「今日は長かったな。」
ルーが労いと共に、煎れ立てのカップを渡してくれて。オレはありがとうと返して一口啜る。
「んー…ここんとこ、全然出来てなかったからなぁ。」
神子の力は着実に開花してはいると思う…けど。
自分の意思で扱えるのは軽めの怪我を治す程度、それも未だ不安定だ。
今はまだ魔力切れの影響で、まともに魔法が使えないから。せめて知識だけでも養おうと、魔導書の類いを中心に勉強だけは進めていた。
それ以外にもオレは無知だから。
なるべくこの世界の教養も、深めとかないと。
だって、こないだみたく弱味に漬け込まれてさ。グリモアのような奴らに、好き勝手言われたくはないもんね…。
「だが、あまり無理はするなよ…?」
「うん、ありがと。」
くしゃりと髪を撫でられ、オレは猫みたく目を細める。ルーに甘やかされれば、勉強の疲れもなんとやら…ってもんだ。
「あ、忘れるとこだった!」
頬張るお菓子をお茶で流し込み、声を上げるジーナは。なんだか楽しそうにオレへと告げてくる。
「明日、ティコんとこに行こうぜ!」
「へ?…急にどうしたんだ?」
首を傾げると、代わりにルーが答える。
「神淵 の森での一件もあり、陛下が孤児院の事を案じて下さってな。これをきっかけにと、正式に援助が受けられるよう…取り計らって下さったんだ。」
とは言っても、孤児院に対する差別や偏見も少なからずあるというので。今回に限っては公務ではなく、アリシア様個人での奉仕活動という名目の元…って。
ようはアリシア様のポケットマネーで、子ども達に何かしら生活に必要な物をプレゼントしようって話らしいんだけど。
「神子と守護騎士が直接動けば、話題性も充分ですし。セツの気分転換や、子ども達にとっても励みになるだろうとの…。陛下がご配慮下さったのですよ。」
ヴィンにも説明され…オレは、なるほど~と頷く。
「世界を救う神子による慈善活動ならば、建前としては何より有用だろうからねぇ。」
一石二鳥だね~と、アシュはウインクして笑う。
オレとしては純粋にティコ達の助けになれたら、それでいいけどね。神子としては世間体も大事だから最もではある。
「リドリーさんとは、事前に打ち合わせしてるらしいから。」
明日は午前中に訪問して。プレゼントする物を子ども達にも訊いてみようよ~と、ロロもウキウキと手を鳴らした。
議会で散々脅されてたし…孤児院は、しばらくお預けかなって思ってたから。すっごく楽しみだなぁ!
「では、明日の分が滞ってしまいますので。そろそろ勉強再開と参りましょうか。」
「ええ~もう!?そりゃないよ~…!」
大袈裟に落胆すれば、みんなから同情するような苦笑が飛び交う。
でも明日また、みんなと出かけられるんだと思えば。それを糧にすれば、何だって頑張れそうだなと。
オレは気持ちを切り替え、もうひと踏ん張りするぞ~と。拳を掲げ意気込んだ。
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