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「ひぃえぇ~…飛ばし過ぎだよ、ジーナ~!」 「そーかぁ?こんくらいのが、気分出て良いじゃんか!」 馴れた手綱裁きで、馬を疾走らせるジーナ。 オレは必死に彼の背中へとしがみつく。 一度は見たはずの、長閑(のどか)な田園風景は。 まるで絵の具で潰されたよう、視界から秒で流れ過ぎて行き…その面影は微塵もなく、満喫する余裕すら与えられない。 そう…ジーナに誘われるまま、オレは彼の馬に乗せられ…今まさに、孤児院へと爆走していおり。 ルーの馬に乗った時は、スゴく穏やかだったのに。 ジーナの手綱捌きは、まるで高速道路を走る大型バイクみたいなもので…オレは終始、生きた心地がしなかった。 ロロはロロで、平然と馬を並走させてくるから… あどけさない容姿に、騙されてはいけないなと…改めて思い知ったのである。 「もう少しスピード落としてよぉ~!」 「そう言われても…あんま時間掛けると、すぐバレちまうだろ~!」 そりゃそうだけどさ… ルーの忠告を無視してきたわけだし。 まあ御者の話だと、もう行く前提で事が進んじゃったみたいだったから仕方ないんだけど。 一応許可とか…誰か屋敷の執事さんとかにでも、相談しといた方が良かったんじゃないかと思う。 ルー、心配してたからな… 後できっとヴィンと一緒に、説教されるんだろうな…。 「もう見えたよ!」 一馬身ほど前を行くロロが、前方を指して叫ぶ。 なんとか薄目を開ければ…確かに孤児院らしき建物が、うっすら確認出来た。 や、やっと馬から解放される… 「セツ!」 「セツさまだ~!」 「みんな、おはよう。ティコも元気そうだね。」 馬から降り孤児院の方へ向かうと、早速ティコ達の歓迎を受けて。オレ達も釣られて、にっこり微笑む。 「今日は……まだ届けられてないみたいだけど。女王様からみんなへ贈り物があるらしいから、楽しみにしててね。」 ティコ達に告げると、皆目を輝かせ万歳し出す。 ジーナが馬を爆走させたから、荷馬車より先に着いてしまったのかもしれない。 「セツ様!」 「あ…リドリーさん、どうも。」 騒ぎを聞き、いそいそとやって来たリドリーさんに会釈すると。彼は驚いたよう口を開く。 「早馬から、今日は来られないとの伝言を言付けられていたのですが…」 「え?いや、その~…」 きっとヴィンが、早々に手配しておいたんだろう。 あからさま動揺するオレに、ジーナがしれっと口を挟む。 「なにやら色々と、手違いがあったみたいでさ~。ちゃんと宮殿からの使者に言われて来たから…」 先程のやり取りを説明すれば、リドリーさんも納得してくれた様子。…嘘じゃないからね、まあ善しとしよう。 「先日来て頂いたばかりですが…あれから子ども達も、すっかり皆さんの事を気に入ってしまいまして。次はいつ来るのかと、楽しみにしていたのですよ。」 リドリーさんの奥さんもやって来て、子ども達を見渡しながらにっこり告げる。 「今回はアリシア様直々に、お話を頂いたんで…」 ティコを巻き込んだことを、気に病んでいたから。 きっと女王様も公然と援助出来て、安堵してるに違いない。 「そのようで…陛下にはもう、感謝しかございません。」 恐れ多いと頭を垂れるリドリーさんは、オレへも感謝を口にする。 「オレは何もしてないですよっ…?」 「いえ、セツ様はティコの恩人ですし。何より子ども達も慕っておりますから…」 そうしてまた、夫婦揃って深々と頭を下げてくれた。

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