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「ほら、あれだよセツさま!」 叫んで指さす方には、少しだけ木々の拓けた空間があって。射し込む木漏れ日に、古びた小屋がポツンと写し出される。 そこでようやく歩調が緩められ。何気に息が上がっていたオレは、ふう~と大きく息を吐いた。 孤児院から随分と離れちゃったけど、ちゃんと戻れるよね…コレ? 「早く行こう!」 見つかっちゃうよ~と、オレの背を押して急かす少年らに。オレは苦笑いしながら従う。 小屋は何か作業用のものなのか。周囲には材木や斧といった道具が、乱雑に置かれていた。 小屋自体が古い上に、森の中は薄暗いため…なんだか気味が悪い。 「セツさま、先に入って~!」 「え?う、うん…」 けれど子ども達の前で、オバケ出そうじゃない?とか、大の男がびびってる姿を晒すわけにはいかず。促され、オレは意を決してゆっくり引戸を開ける、と… ────中には、想いもよらない光景が…待ち受けていたのだ。 「愚図め…やっと来たか。」 いきなり悪態を吐く、人影。 外より更に薄暗い小屋の中、目を凝らせばソイツは溶け込むような真っ黒いローブを纏っており…目深に被るフードの隙間から、ギラリと目だけを光らせる。 顔はわからない…が。なんとなくだけど、その声には何処か聞き覚えがあった。 「だ、れ…?」 嫌な予感しかしなくて、背後の少年達を庇うよう隠し身構える。 すると人影…声の質からして、老齢の男は。不気味に光る目を細めると、クツクツと笑い始めた。 「どうやら守護騎士共は、おらぬようだな。」 良くやったと、男はオレを無視して称賛を述べる。 はオレの背後へと向けられており。 急いで外を振り返ったけれど…男の仲間らしき者の姿は見当たらなかった。が… 『………ッ…』 目が合うなり、気まずげにそれを逸らしてしまう少年達に…ひとつの疑念が浮かぶ。 今思えば…最初にかくれんぼを提案したのは、この少年だったし。何処か焦ってたような…不自然さも感じられた。 こんな小さな少年達が…とか、考えたくはないけど。あの男の台詞と、少年らの態度を考えたら… その答えは概ね、最低最悪のものなんだろう。 「キミ達は…」 「ごめんなさい…!!」 一番年上っぽい少年が、ふたりを庇うように叫ぶ。 「神子様を連れて来たら…お金、くれるって…」 孤児院に寄付をしてやるからと────… 事実を知らされたオレは、衝撃のあまり絶句する。 (ああ…利用、されたんだ…) 孤児院が金銭的に大変なのは、火を見るより明らかで。この子達なりに、仲間を…家族を思いやり。つい悪い大人の甘言に、乗ってしまったに違いない。 騙したんだ、この子達の純粋さを利用して。この男は… 「グリモア…」 「おや、勘が良いな…神子よ。」 ふざけやがって… そう、オレが呼んだとおり。 目の前の男はこの世界できっと今、オレが誰よりも大っ嫌いな人間… 貴族院の大臣、グリモアだったんだ。

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