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⑨
「ほら、あれだよセツさま!」
叫んで指さす方には、少しだけ木々の拓けた空間があって。射し込む木漏れ日に、古びた小屋がポツンと写し出される。
そこでようやく歩調が緩められ。何気に息が上がっていたオレは、ふう~と大きく息を吐いた。
孤児院から随分と離れちゃったけど、ちゃんと戻れるよね…コレ?
「早く行こう!」
見つかっちゃうよ~と、オレの背を押して急かす少年らに。オレは苦笑いしながら従う。
小屋は何か作業用のものなのか。周囲には材木や斧といった道具が、乱雑に置かれていた。
小屋自体が古い上に、森の中は薄暗いため…なんだか気味が悪い。
「セツさま、先に入って~!」
「え?う、うん…」
けれど子ども達の前で、オバケ出そうじゃない?とか、大の男がびびってる姿を晒すわけにはいかず。促され、オレは意を決してゆっくり引戸を開ける、と…
────中には、想いもよらない光景が…待ち受けていたのだ。
「愚図め…やっと来たか。」
いきなり悪態を吐く、人影。
外より更に薄暗い小屋の中、目を凝らせばソイツは溶け込むような真っ黒いローブを纏っており…目深に被るフードの隙間から、ギラリと目だけを光らせる。
顔はわからない…が。なんとなくだけど、その声には何処か聞き覚えがあった。
「だ、れ…?」
嫌な予感しかしなくて、背後の少年達を庇うよう隠し身構える。
すると人影…声の質からして、老齢の男は。不気味に光る目を細めると、クツクツと笑い始めた。
「どうやら守護騎士共は、おらぬようだな。」
良くやったと、男はオレを無視して称賛を述べる。
ソレはオレの背後へと向けられており。
急いで外を振り返ったけれど…男の仲間らしき者の姿は見当たらなかった。が…
『………ッ…』
目が合うなり、気まずげにそれを逸らしてしまう少年達に…ひとつの疑念が浮かぶ。
今思えば…最初にかくれんぼを提案したのは、この少年だったし。何処か焦ってたような…不自然さも感じられた。
こんな小さな少年達が…とか、考えたくはないけど。あの男の台詞と、少年らの態度を考えたら…
その答えは概ね、最低最悪のものなんだろう。
「キミ達は…」
「ごめんなさい…!!」
一番年上っぽい少年が、ふたりを庇うように叫ぶ。
「神子様を連れて来たら…お金、くれるって…」
孤児院に寄付をしてやるからと────…
事実を知らされたオレは、衝撃のあまり絶句する。
(ああ…利用、されたんだ…)
孤児院が金銭的に大変なのは、火を見るより明らかで。この子達なりに、仲間を…家族を思いやり。つい悪い大人の甘言に、乗ってしまったに違いない。
騙したんだ、この子達の純粋さを利用して。この男は…
「グリモア…」
「おや、勘が良いな…神子よ。」
ふざけやがって…
そう、オレが呼んだとおり。
目の前の男はこの世界できっと今、オレが誰よりも大っ嫌いな人間…
貴族院の大臣、グリモアだったんだ。
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